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『光砕のリヴァルチャー』 - データのプレイアビリティ

 『光砕のリヴァルチャー』のデータデザインはプレイアビリティがすごい、という話をします。

 

 本稿における「データ」とは、キャラクターの戦闘能力を構成する小単位の要素、すなわち、おおむね「フレームのアビリティ」「ウェポンの効果」「クロニクルの効果」を意味します。

 

 「プレイアビリティ」とは、「ユーザーがそのデータを見る・使うにあたって余計な負担や問題がないか」の観点です。

 

 

効果が書き下されている(キーワード化していない)

 

 普遍的なルール用語(【アタック判定】、ムーヴ、ジアドエネルギーなど)を別にすると、各効果はその詳細が原則として「書き下されて」います(キーワード化されていません)。つまり、「その効果だけを読めば(ほかのページを参照せずとも)意味がわかる」ようになっています

 

各効果に多用途性が(あんまり)ない

 

 『リヴァルチャー』のデータは、原則として、ひとつの効果が複数の用途をもたないようにデザインされています(例外はいくつかあります・後述)。

 

 手持ちのデータに複数の用途があると、「使いどころを(過剰に)悩んでしまう」――転じて「(過剰に)温存してしまって機を逸する」問題を引き起こしがちです。

(たとえば、「攻撃し、与えたダメージに等しい点数の回復効果を得る」みたいな効果があったとしたら、「まだダメージを受けていない状態では使いたくない」心理が発生してしまいがちですね)

 各データがひとつの用途のみをもつならば、この問題を回避できます。

 

 例外にあたるデータも、「一見すると多用途に感じづらい」ように記述されています。

 

 出目を操作したり振り直したりする効果は、その最も顕著な例です。(たとえば「自分の振ったダイスの出目を変更する」たぐいの効果は、「ジアドエネルギーの獲得」にも【アタック判定】にも使用できますが、データ単体で読むうえでは「ダイス目を変更する」という単機能に見えるため、初期理解がしやすくなっています)

 

 ほかには、一部のブレードにある「シールドを破壊したらジアドエネルギーを獲得する」効果も、その好例です。この「ジアドエネルギーを獲得」は、「第二の用途」ではなく「うまくいけばもらえるオマケ」と感じられるように誘導されています。そして、シールドを破壊できるかどうかはけっきょくのところアタックしてみないとわかりませんし、一方で、ブレードでの攻撃がうまくいけば大抵はシールドを破壊できますから、むやみに温存したくはなりません。得たジアドエネルギーも、ただちに活用できなかったとしても次ラウンドに繰り越せますしね。

 

デメリット効果が(あんまり)ない

 

 デメリット要素がふくまれる効果が少なく、その数少ない例外(後述)も充分に配慮された実装になっています。

 

 一般的にデメリット要素には、「(とくにゲーム経験のすくないユーザーにとって)理解に必要なステップが増える」「採用を躊躇させる」「プレイ中に使用を悩ませる」などを問題があります。これを避けることの意義はおおきく、そして『リヴァルチャー』は非常に意識的にこれを実践しているように見受けられます。

 

 少数あるデメリット要素も、(プレイアビリティを過剰に損なわないように)巧みに組み込まれています。その好例は、【エイムスタンス】です。これは余計なストレスをうまないように、充分な考慮がされています。

 「遠距離戦重視のフレームについているからあまり問題にならない」「名称がアビリティの内容を明瞭にあらわしており、納得できる」「もうひとつのアビリティが【エイムスタンス】との併用を前提としているから積極的に使用する動機がある(しかももうひとつのアビリティ側には【エイムスタンス】のデメリットを緩和する性質がある)」――などの、多重の配慮が見られます。すごい。

 

 ほかの好例は、「クロニクル」の「軽量化」「重装甲化」などです。これも「名称が内容を明瞭にあらわしており、納得できる」のはもちろん、デメリット要素は「デメリット」と明示されています(デメリット要素の理解のむずかしさのひとつは、「そもそもデメリットをデメリットと認識する」段階にあるので、これを明示する意味はおおきいのです)。

 

 【誓いますか?】は、このデザインにまつわる面白い例です。これの効果で追加される制約は、クロニクルの主旨からして理解が容易ですし、(やはり主旨に照らして)デメリットと表現すべき内容ではありませんから、このような記述になっているのでしょう。

 

各データの価値が明瞭である

 

 ここまでに述べてきた3点――「効果が書き下されている」「多用途性がない」「デメリット効果がない」などがもたらす総合的な作用として、各データの価値が非常に明瞭になっています。

 つまり、「そのデータを取得すると、どんな“いいこと”があって、どう活用すればよいのかが一目してわかる」(すくなくともわかったような気になれる)のです。

 

 ユーザーが「データがむずかしい」と感じる原因のおおきなひとつは「存在意義(使いみち)がわからない」ことです。『リヴァルチャー』のデータデザインは、それを多角的なアプローチによって回避しています。

 

各データが独立的に有用である & 有用性以外の強固な採用基準がある

 

 ユーザーが「データがむずかしい」と感じる原因の最たるもうひとつは、「データを選択できない」――言い換えれば「どのデータが相対的に有用なのか判断できない」ことです。『リヴァルチャー』はこの問題にも効果的な処方をもたらしています。

 

 まず、各データは独立的に充分な有用さをもっています。

 これはひらたく言うと、「死にデータみたいなものがない」「データ間の相性みたいなものが(あんまり)ない」ということです。

 (遠距離志向と近距離志向ではいくらか相性の問題があるものの、それについても致命的なほどの組み合わせはほぼありません)

 

 そして、有用性以外の採用基準として「設定やストーリーが気に入ったもの」が提示されています

 これは建前ではありません。例外なくすべてのデータに魅力的な小噺が用意されているのです。

 有用性の判断とちがって、「自分の嗜好がどれに魅力を感じるか」はブレづらい強固なものですから、第二の評価軸として頼もしいといえるでしょう。

 

“簡単で面白いゲーム”構想

 

 以上、デザイナーズノートで語られたような“簡単で面白いゲーム”構想、その重要な一部分を担っているであろう、データデザインに関する私見を述べました。

 

 

 『リヴァルチャー』の戦闘は、プレイとデザインをゆたかなものとするに充分な複雑さをのこしつつも、プレイアビリティは特筆すべき高さにあると感じました。どらこにあん技術の精粋ですね。瀧里フユさんと宝井ロメロさんに拍手。