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叡知

クルーエルフロントのデータデザイン

 『クルーエルフロント』専用データのデザインをふりかえります。

 

 

 

デザイン基本方針

 

 まず、(PCプレイアブルの)ユーザーメイドデータをデザインする際の一般的な留意点として、

  

  • 標準データと並べたときにパワーレベルで見劣りしない
  • 標準データをスポイルしない

  

 ――の、ふたつがあります。

 

 「パワーレベルで見劣りしない」ようにする理由は、ストレスなく使えるようにするためです。

 理由をさらに分解すると、まず単純に「強いものは使いたくなり、弱いものは使いたくならない」というのがひとつあります。「あえて弱いキャラクターをつくりたい」などの尖った趣向が介在する場合をのぞいて、原則的には弱いデータはこのまれません

 また、そのセッション専用( or シナリオ専用)のオリジナルデータがある場合、「どうせなら使いたい」というバイアスがかかります。デザイナー側からするとこのバイアスはたいへんありがたいものですが、しかし、「どうせなら使いたい」と「でも弱いしな……」は同時に発生する心情です。このふたつが発生して衝突すると、けっこうなストレスをうんでしまうので、「でも弱い」とならないだけのパワーレベルは確保しておくほうが無難です。

 

 「標準データをスポイルしない」ようにする理由は、選択肢を狭めないためです。

 ユーザーメイドデータだけで十分な(標準データに匹敵する)数を確保できるならともかく、そうでなければ、「もうユーザーメイドデータだけあればいいんじゃないかな」みたいなバランスになってしまうのはいただけません。キャラクタービルドの選択肢を狭めてしまうからです(――たとえば単純化すると、100の標準データがスポイルされて20のユーザーメイドだけが残るなら、バリエーションは5分の1になっている、みたいな話です)。

 したがって、標準データは標準データとして価値を維持できるように留意しておくべきなのです。あらゆる標準データの価値を一切そこなわない、とまではいかずとも、可能なかぎり注意をはらって、それでもスポイルするなら自覚的であるべきです。(ただし、「もともと採用に値しないような標準データ」には気をつかう理由はありません。スポイルしても選択肢が減りませんからね)

 

 以上二点をふまえると、デザインのアプローチはだいたい次の6つになります。

 

  • 標準データの範囲ではできなかったことをできるようにする
  • もともと採用されないほどパワーレベルの足りない標準データを引き上げる
  • パワーレベルが低めだが、取得コストも小さくする(にぎやかし
  • あきらかにパワーレベルが高いものを、納得できる形に整えて提供する
  • パワーレベルを高めにしつつ、回数制限などの制約によって安易な上位互換にならないようにする
  • いずれにせよ、標準データに頻出する効果はできるかぎり避ける

 

 以上の、メカニクス面の制約とは別に、今回のデータはその趣旨からして、「元ネタ(『幼女戦記』)か、すくなくともそれに類似するミリタリーや架空戦記のネタでなければならない」というフレイバー面の制約もありました。

 

 といったところで前置きを終えて、個別のデザインに言及していきます。

 

 

エンブレムデータ

 

即応戦闘 / イミディエイト

 

 元ネタは『幼女戦記』に何度かある「休んでる状態からいきなり任務に叩き込まれる」展開。

 

 効果としては「侵蝕率不足による機能不全を(まぁまぁの確率で)避ける」ためのもの。この方面の効果は標準データにはろくに存在しない(『HR』の「スタヴェイトD」がこの系統ではあるものの、論外に弱い)わけですが、侵蝕率を(低めに維持するのを渋るならともかく)高めにするのをそこまで厳しく見る必要はない……というか、『RU』や『RW』での制限エフェクトの拡充をふまえると、むしろどんどん開放していくべき領域のはず。なのでかなり自由が利くようにして、取得コストも「なんとなくで払える」くらいまで落としています。

 

嗜好品 / スティミュラント

 

 元ネタは『幼女戦記』に度々出てくる「酒」「タバコ」「チョコレート」「コーヒー」「イヌ」など。

 

 効果は「衝動判定への保険」。暴走すると困るキャラクターというのはいる、というか高経験点になるとたいていのキャラクターはそうなる傾向にある一方、そこへの対策にあまりコストをかけるのもそれはそれで躊躇われる……というジレンマを解消するためのデータ。

 そもそも「衝動判定に失敗して暴走する」体験は、だいたい余計なストレスかなという気がしています。意図的に配置されたやつならまだしも、形式的にやる衝動判定で暴走させられてもなぁ、という。

 

地獄の匂い / サバイバー

 

 元ネタは「ライン戦線からの生還者」。

 

 効果は「キャラクタービルド上の軽微な不自由をまとめてクリアする」もの。具体的には、シンドロームごとの能力値に由来する問題への処方になるくらいを想定しています。

 常備化ポイントと財産ポイントを別個に記述することで、「継続的な地位の向上」と「臨時の報酬」を表現できるように試みました。

 後述の「傑出戦功」とすくなからず被ってしまっているのは、いま見るといまいちですね。

 

銃火怒涛 / フレイムコーラー

 

 特定の元ネタはなく、銃使いキャラクター全般を支援するデータ。銃自体は近代戦争やミリタリーと親和する、という考えです。

 

 効果は弾系のアイテムデータの利用を簡単にするためのもので、「いくつ常備化するか決めかねる」「何度も購入判定をするのはわずらわしい」などの問題に対し、「じゃあ無限に使えればいいんじゃない?」を解答としました。

 “種別から「使い捨て」を削除して「エンブレム」を追加”すると「無限に使えるが他人には渡せない」を綺麗に書ける、という発想は非常にクールだと感じています。

 

代替手段 / ラストリゾート

 

 元ネタは、主には『幼女戦記』のノイマン(人名)が銃で敵兵を殴打した場面。それにかぎらず一般的に(フィクションにおいて)、銃を鈍器にする演出はちょくちょくありますね。

 

 効果はそれをそのまま再現する、つまり「種別:射撃」の武器を白兵攻撃に使えるようにするためのもの。至近不可の射撃武器を持っててエンゲージされたときへの保険というか。

 逆(「白兵武器を射撃攻撃に」)は標準データにあります(《魔弾の射手》)から、ルール面な破綻はきたさない(正確には「破綻したとしても元から存在し得る破綻でしかない」)とはわかっています。

 課題は「銃で殴るのが、銃を撃つより、そして剣で斬るより、いずれも強くなってはいけない」ところにありました。こんなものは(元ネタに照らしても)あくまで「やむを得ずとる手段」の位置づけでなければならないのですが、でも「それが強いなら常時それを使う」のはプレイヤーとして自然な心理です。ならば、とにかく銃で殴るのが強すぎるようではいけません。

 さらに、「拳銃で殴る」のと「巨大なガトリングガンで殴る」(ノイマンがやったのはこっち)のとでは威力が変わらないと不自然ですから、あるていどは性能が変動しないとなりません。

 とはいえ、射程は至近で固定に決まっていて、命中修正は射撃武器と白兵武器とのあいだに差はあまりなく、もともと似たりよったりです。となれば、強くなりすぎるかどうかは、ひとえに攻撃力の設定にかかっています。

 初期案では、「元の(射撃武器としての)攻撃力をベースにいくらか算数する」データでした。拳銃とガトリングガンでの威力の差がシンプルにあらわれるからです。しかしこれには問題があって、このゲームの標準データにある射撃武器(とくに大型の火器)は、わりと白兵武器より攻撃力が高いのです。『ルール1』p177にかぎっても、日本刀(5)、チェーンソー(6)、大岩/巨木(8)などにくらべて、大型拳銃(5)、アサルトライフル(9)、スナイパーライフル(11)などの数値がならんでいます。レッドテンペスト(22)での打擲が両手剣(10)より強くては困ります。

 しかも、とくにユニークアイテムなどの場合、射撃武器の攻撃力は高めに設定されやすい傾向があります(じつとレッドテンペストをみる)。そうなると、銃の大きさというよりは風格が威力につながってしまいます(が、打擲のごとき蛮行に風格が関係すべきではない)。このことからも、元の攻撃力を基準にするのはうまくないアプローチでした。

 代わりに目をつけたのが「(元の)射程」です。射程であれば、ユニークアイテムなどであってもおおむね通常のアイテムと同程度の水準に収まっています(――まぁ、射程を大きくしても現実のプレイでの意味がほぼありませんからね)。射程を元に算数をしましょう。アサルトライフル(150m)やスナイパーライフル(200m)がまぁ許せる範囲の攻撃力に収まって、できるかぎり計算が用意なもの――ということで、「射程÷20」に。これだけだと、けっきょくただのライフル打擲が日本刀より強いことになってしまうので、丸めるために「最大【肉体】」をつけました。膂力があれば銃で殴っても強い(=膂力がなければあんまり強くない)、というのは直感的に納得しやすいですし、元が銃を使うキャラクターの場合、たいていは【肉体】が低く、実際に日本刀(5)や両手剣(10)を安易におびやかすほどの数値にはならないはずだからです。

 最後に、「打撃に使ったら壊れるかもしれない」リスクをつけました。とにかく常用されては(フレイバー面で)困る以上、常用をためらわせる材料が必要だったからです。出目1ではなく10を条件としているのは、「ダメージが多く出たときに壊れるほうが、利益と不利益がいくらかでも釣り合って納得しやすい」と考えたためです。

 

傑出戦功 / マギステル

 

 「白銀」とか「銀翼突撃章」とか言うためのデータです。『2nd』時代に「マギステル」の名を冠するなにかがあったことは公然と無視しました。

 

 『幼女戦記』を踏まえてエースを表現するなら、こういうニュアンスのデータは確実に必要でした。このゲームはもともと大半のキャラクターがコードネームをもつからこそ、特別な称号は特別な実装で保証されなければならないのです(――標準データだと、マスターエージェントのエンブレムデータが類似の方向性ですね)。

 キャラクター表現の要として提供するデータゆえに、「できるかぎり誰にとっても平等に有用」で、しかし「このデータがキャラクターデータに特定の方向性を与えてしまわない」、かつ、「取得を躊躇わせるほどには高くない」、そして「勲章なのだから複数を取得できる(つまり累積に意味がある効果である)」性質がもとめられ、すべてを満たすための解答は「能力値を安価に稼げる」になりました。

 

 このデータの肝は、言うまでもなく「名称や背景をみずから設定する」ところにあります。プレイヤーがPCの設定を躊躇なく盛れるようにすると同時に、ステージのディティールをプレイヤー側で増やしてもらえるという目論見です。

 

戦闘芸術 / アートオブウォーフェア

 

 元ネタは『幼女戦記』にも何度かあらわれる「戦争芸術」。ただし、戦術次元でのそれそのものをPCプレイアブルにするのはむずかしい(※現実的には、戦術はシナリオの内容に振り回されがち)ので、「戦」ではなく「戦」としています。

 

 効果はデータ名からそのまま率直に起こして、「〈芸術〉のレベルを参照するボーナス」。〈芸術〉のレベルを伸ばす過程で自然とキャラクター設定が増えるはず、という目論見があります。

 

先行回収型 / インプルーヴド

 

 元ネタは『幼女戦記』の「エレニウム97式」。

 

 効果のメインは「破壊されない」部分。ステージの雰囲気を踏まえると戦闘機乗りのPCが想定され、そのヴィークルが壊れかねないようでは(プレイヤーにとって)困る、という理由で用意されたデータです。武器を破壊されなくするとパワーレベル面の危険性が大きい(あと「エピック」をスポイルしてしまう)ため、防具かヴィークルに限定しました。

 主眼は上記のとおりでありつつも、「破壊されない」だけだとメリットが狭すぎるため、ほかにも普遍的な選択肢をいくつか用意しています。「破壊されない」は武器におよぼしたくはないとして、(装備関連の表現をここに集約したかったので)武器にまつわる効果はあるべきだと考え、攻撃力とガード値を直截的に上げる実装でこれを満たしています。

 

戦争屋 / ウォーモンガー

 

 元ネタは『幼女戦記』に頻出する「戦争狂(ウォーモンガー)」というフレーズ。「狂」ではない表現にしたのは、このゲームだと「狂」には精神的不利益(=暴走や憎悪)のニュアンスがあるため。

 効果を起こすにあたっては、「脳内麻薬術式」を元ネタとしています。

 

 効果は「ドラッグ系アイテムの実用化」。「銃火怒涛 / フレイムコーラー」とほぼ同様の構造です。ドラッグ類はタイミングと侵蝕値の観点でかなり不自由なのに、入手まで困難だと使いづらすぎる、だからそこをクリアしてみよう――というデザイン。

 

腹心 / クロックワークス

 

 元ネタは『幼女戦記』の「セレブリャコーフ少尉」。

 

 効果のメインは、「(限定的な)侵蝕率制限の無視」。対象と難易度にまつわる制約から、《リミットブレイク》とはあまり被らないようになっているはずです。「打ち消されない」「対象を変更されない」は(プレイヤーにとっての)安全装置であり、これはキャラクター性に深くかかわるエンブレムデータなので、その効果を受けた行動が妨害されるようでは困るだろうから用意されたものです。歯車は狂ったりしません。

 カラー効果の切り替えは、元ネタを意識した、つまり「ヴィーシャからデグさんへのカラーをWHかPUの一方とするには無理がないか?」という疑問を回避するために実装されました。

 

コネ:後方の理解者

 

 元ネタは『幼女戦記』の「(ターニャから見た)レルゲン中佐」。

 

 効果は「汎用的な判定補助」。達成値の部分は標準ルールと同じレートなので、実質的には「前払いの代わりにダイスも増やせる」という意味合い。いま振り返るとパワーレベル不足というか、どうせ財産ポイントを要求するなら回数制限はもっと緩くてよかった気がしますね。

 

コネ:耳聡い同胞

 

 元ネタは『幼女戦記』の「エーリャ」。

 

 効果は「〈情報:軍事〉判定への強力な補助」。「(データ面でも設定面でも)情報収集が苦手」なキャラクターをやりやすくするためのもの。軍人PCとなれば武勇特化の造形をしたくなる可能性が想定されて、それでも(ゲーム便宜のために)情報収集能力を最低限度は確保しようとしたときにキャラクター性をできるかぎり損なわないように、コネひとつで済ませられるようにしてみました。

 

対超人兵士戦闘教義 / アンチオーヴァードドクトリン

 

 元ネタは、近現代の軍事一般における「ドクトリン(戦闘教義)」の概念。『幼女戦記』にも頻出する語句ですね。

 

 効果は、実質的には「〈知識:〉を安価に取得できる」もの。エリートコース系のキャラクター造形を補助する意図です。

 

時を超えた提案書 / デモンズオファー

 

 元ネタは『幼女戦記』の「悪魔の計画書」。このゲームで「計画(プラン)」やら「悪魔」やらと言ってしまうと別のニュアンスが混入するので、それを避けるようにネーミング。

 

 効果は「アージエフェクトの補助」。「ストレス」を表現する衝動判定によって「足りない侵蝕率を稼ぐ機会」を提供したうえで、本来のタイミングを無視して使用できるようにするものです。アージエフェクトは(『RU』リリース当時における)ある種の合理的な理由によってタイミングがわりと変則的であるわけですが、現行のゲーム環境においてはそこが不自由だったりもする、ならばタイミングを緩和してしまえ――というデザインです。

 

特記戦力 / ネームドソルジャー

 

 元ネタは『幼女戦記』における「ネームド」(他国、とくに敵国から個別に認識されているほどの兵士)の概念。

 

 「ネームド」とはなにか? 「有象無象ではない」ことです。

 

 ――というところから考えて、効果は「トループに対する圧倒的優位」に。ただし、そもそもトループは(たいていの場合は)弱いエネミーであり、格別の対策が必要ではないとも言えます(――なのに標準データにあるトループ対策(《ソニックブーム》等)は、メジャーアクションを実質的に占有してしまうせいで採用されないわけですね)。なので「能力値を増やす」効果で実質的な取得コストを10点分ほど割り引いて、両者を調和させるために「その能力値を使用した判定」という制約をつけました。

 

戦闘機動 / バトルフィールドマニューバ

 

 『幼女戦記』を意識するうえで避けては通れないモチーフ。

 あの作品の戦闘描写の肝のひとつは「航空機動」にあって、しかしこのゲームは本来それをまともに表現できない(《天を統べるもの》の効果はニュアンスがちがいすぎる)ので、なにかしら用意しなければならかったわけです。

 

 高速戦闘での機動を表現するなら、移動をタイミングの観点から補助すべきなのはまちがいないところです。「いつでも」はやりすぎ――『2nd』の待機ルールはわるい文明――として、とりあえず標準データにもあるセットアップとマイナーは可、じゃあイニシアチブ(《異形の転進》)も……とはなりませんでした。イニシアチブでできる行動がむやみにあると、戦闘の進行を滞らせてしまうからです。代わりにクリンナップを追加。

 移動効果までをエンブレムデータに内包すると、標準データの移動エフェクトがスポイルされてしまうため、元のエフェクトは標準データ側から取得させるように調整しました。

 

帝国魂 / ブレイブリー

 

 元ネタはよくある「○○(国名)魂」の概念。「大和魂」とか。

 

 つまりは敢闘精神のことであり、効果は「戦闘不能などの不利益を免れる」系であることは確定しています。初期案では直截的に「戦闘不能を回復する」やら「不利な効果を解除」やら書いてあったのですが、そのあたりはみだりに手を出すと妙なハックができるデータがうまれがち(&プレイヤー視点だとハックしたくなりがち)で、あんまりよろしくありません。なので明快かつ安全に、「《リザレクト》の制約を緩和する」効果としました。

 

不敗なるもの / アンディフィーティド

 

 元ネタは一般的な「常勝無敗」の概念。

 

 「負けない」といえば「対決に勝利する」が最も率直なのですけれど、その効果は標準データにも有力なやつがあるんですよね(《虚空の残影》や《月光の奏者》や「戦場の死神」、さらに言うなら「リアクション不可」などもこれに準ずる効果)。

 よって発想を逆転し、「ボーナスがあるが、負けたらペナルティ」(だからペナルティが発生しないかぎり無敗を体現できる)という仕立てにしました。「必中の弓」と同じ方向性ですね。

 対決を有利にする効果としては、特別感を重視して「クリティカル値の減少」を採用(ダイス数や達成値はありきたりすぎるため)。ペナルティ側は、「戦闘不能になる」だとむしろメリットになりかねない――なにもかも《ラストアクション》がわるい――点を考慮し、一歩下がって「HPを1にする」としました。(とくに高経験点ならHP消費や反射ダメージ等が多発するので)これでも十分な脅威でしょうし、ドッジで使って敗北したならそのまま倒れるでしょうし。

 

月月火水木金金 / 24 / 7

 

 元ネタは同名の軍歌、さらにその元ネタの旧日本軍のエピソード。

 

 効果は「使用回数制限の緩和」。「帝国魂 / ブレイブリー」とは別の方向性の継戦補助です。

 強力さが一目してわかり、それでいてパワーレベル的に壊れない(もとから3回も使用できるものが4回になったところでなにかが壊れたりはしない)、クールな効果ができたとおもいます。

 

畏怖の担い手 / ドレッドディーラー

 

 元ネタは『幼女戦記』の「“衝撃と畏怖”作戦」。内容ではなく字句の響きを借りた格好です。

 

 火力を伸ばすデータもひとつくらいは用意したいところでしたが、さりとて「攻撃力を+nする」とだけ書いても何も面白みがない、という問題があります(※標準データで最も開拓されてしまっているデザイン領域のひとつであり、ぬるい数値では見劣りしてしまうし、つよくしすぎると標準データがスポイルされてしまう)。

 ヒントになったのは、「“衝撃と畏怖”作戦」の過程で(作戦の主旨とは関係なく)使用された「酸素を焼く」攻撃や「気化燃焼術式」でした。「熱や爆圧による直接攻撃以外の副次的被害をあたえる」の因果をメカニクス上で逆転させて、「副次的効果があるほどの攻撃なら直截的効果も強いだろう」というデザインにしました。もともとバッドステータスがあつかいづらいゲームですし、そこを補助することになるのも好ましい要素です。

 

選抜兵士 / ファーストクラス

 

 元ネタは『幼女戦記』の「第203航空魔導大隊」そのもの。

 

 (「203」めいて)選抜された兵士のもつ性質とはなにか――と考えると、「技能や能力値を補強する」のは迷わずに出てきます。

 とはいえ、それだけでは地味も地味で、もっとべつの、一目してわかる(そして安定的に発揮される)強さを付加したいところでもあります。そこで地味の逆、つまりこのゲームにおける花形を考えると、それは当然エフェクトです。そのなかでも「もとから花形が務まる」ような存在感のエフェクトだと、わざわざフィーチャーする意味がありません。よって一般エフェクトをとりあつかうことに。回数制限のある一般エフェクトは、意外とシンドロームごとのエフェクトと同等の存在感があったりするので、そこを除外しつつ、「最大レベルで取得できる」効果によって「最も訓練された兵士である」ニュアンスを表現しました。

 

帝国無双 / エースオブエース

 

 元ネタは『幼女戦記』に登場する「エース・オブ・エース」(撃墜スコア一定以上のエース)というフレーズ。空戦系のフィクションには(あるいは英語として自然な“エース・オブ・エイセス(Ace of Aces)”の形でも)ちょくちょく登場しますね。

 

 効果はシンプルに「超必殺技」。エフェクトのレベルが上がれば、それは傑出した必殺技になる。じつにシンプルです。

 「打ち消されない」は「腹心 / クロックワークス」のそれと同様の理由です(=こういうキャラクター表現と密接な能力は軽々に妨害されてはならない)。

 

英雄殺し / エースキラー

 

 ここまでさんざん「エース」を持ち上げてきたので、最後にその上をいこう、というデータ。『幼女戦記』で他国のエースをデグレチャフ少佐が打ち破る展開(何度かありますね)が元ネタ。

 

 このネタをあつかうなら、エース(つまり名前つきでシナリオに出てくるような)エネミーに対して優越し得るような効果でなければなりません。より噛み砕くと、「大抵のエネミーに対して有効に作用する」「ちょっと度を越したほどにパワフル」な効果でなければならない。それでいて、もちろん「標準データをむやみにスポイルしない」ことを意識する必要もあります(ただ、これは取得コストの面で最上級のエンブレムデータ=花形になる想定があったので、いくらか標準データを犠牲にする余地はありました)。

 判定ダイス数とダメージの補強はナシ(※スポイルされる標準データが多すぎる)で、大技系のエフェクトと互換するようなものもナシ(※やはりスポイルされるものが多すぎる)。そうなると、普遍的な効果としては、達成値の補強くらいしか残っていません(――達成値を恒常的かつ直截的に増やす効果は、標準データには比較的すくなく、また規模も小さいのです)。

 これのパワーレベルは、「これの有無がかなりはっきりと勝敗を決定的なものにする」くらいであるべきなので、効果値を「+20」としました。有力な達成値操作(《現実改変》や《勝利の女神》など)はたいてい事後に使用するものであり、これと累積します(=競合しません)し、「+20」が載っていてももちろん足りないときは足りないので、じつはこのくらいやってもスポイルされないはずだという目算です。

 

 

Dロイス

 

神秘兵装 / アーティファクト

 

 元ネタは『幼女戦記』の「エレニウム95式」。

 

 

 ステージにまつわる原初のアイディアというか、ステージ化の発想が出たのが2020年4月下旬だったはずなので、原初より前のアイディアですね。

 

 「95式」を表現するデータが「どっかからアイテムをもってくる」効果なのは、(原初のアイディアであったくらいには)ひとまず疑いのないところです。

 この方針において検討が必要だったのは、そのたぐいのデータとしては《アーティクルリザーブ》や「生ける伝説」をはじめ、「装着者」や「撃墜王」や「真実を知る者」、アイテム絡みのDロイスという観点まで広げれば「秘密兵器」に「遺産継承者」、さらにノンプレイアブルながら「マジカル☆リクエスト」……と先例が大量にあることです。

 まず「他のステージのデータを取得できる」点で一定の個性は確保できるとして、数値的上限を「装着者」「真実を知る者」の倍にしてインパクトを形成。そしてユニークアイテムでも取得できるようにする代わりに、FH専用アイテムやエフェクトアイテム、シンドローム専用のユニークアイテムには手を出さない、という境界線を置いてみます。《アーティクルリザーブ》や「生ける伝説」は臨時効果なので恒常的効果のこれとは区別できますね。「撃墜王」は……元のデータのパワーレベルが低すぎて話にならないと感じたので、犠牲になってもらいました。ステージ専用のDロイスですし。

 侵蝕率基本値が増えるのは、元ネタの「精神汚染」を踏襲した実装です。

 

逸脱戦技 / エクセレント

 

 特定の元ネタはありません。戦闘機パイロットの戦技、とくに本人の名が冠されて伝わるようなものを意識しています。

 

 最初はエンブレムデータとして実装していたのですが、パワーレベルで言っても存在感で言っても抜きん出ていたので、Dロイスに格上げした、という経緯があります。

 「制限にDロイスを追加する」は「軽々に打ち消されない」という意味でもあります(必殺技が打ち消されるようではならない)。

 「今までに存在しなかったメカニクス」でありつつ、「一見して強いとわかるが壊れない(既存データがふたつに増えるだけなので壊れるとしたら元が壊れている)」点では「月月火水木金金 / 24 / 7」や「帝国無双 / エースオブエース」と、「プレイヤーの表現力を借りてディティールを増やす」点では「傑出戦功 / マギステル」と同種のデザインです。

 

超空の翼 / ナグルファル

 

 元ネタは『幼女戦記』における「航空魔導師」の概念そのもの。

 

 要するに、「飛んで戦えてそれゆえに強い」ことを表現するためのデータです。

 困ったことに、このゲーム、(超人をやるゲームなのに)意外と飛べないんですよね。継続的に飛べるエフェクトとなると《鷹の翼》や《解放の宴》などのごく少数しかなく(※移動中だけ飛行状態相当になるのは航空機動戦っぽくないためノーカン)、あとは一部のヴィークルくらい。べつに飛行状態ってさほどメリットがない(=強くない)はずなんですけど、なんでなんすかね? ……ともかく、まずは誰でも飛べるようにするために、エネミーエフェクトの《飛行状態》《飛行状態Ⅱ》を引用します。

 でも、飛んだだけではどうしようもないんですよ。繰り返しになりますが、飛行状態そのものにはさほどメリットがない(相手が飛んでなければ移動しやすい、くらい)ので。移動を補助するために(というか移動エフェクトに見劣りしないために)「封鎖の影響を受けない」効果をとりあえずつけるとして、そのくらいではパワーレベルも不足していますし、航空機動戦の表現を推奨するほどにはなりません。

 ここでドッグファイトの表現について考えると、回避行動が重要なファクターのように思われました。なのでドッジを推奨してみることに。とはいえ、もともとドッジは(わかっているプレイヤーが適切にビルドすれば)(ことさらに推奨するまでもなく)かなり強い行動ではあります。強みを上乗せするより、不自由を解消するほうがおそらく際立つ、と考えました。そして――ドッジの最大の不自由とは、「オール・オア・ナッシング(達成値がおよばなければ完全な無意味に等しい)」である点です。そこを緩和する、つまり「達成値がおよばなかったとしても意味をもち得る」ようにする効果がうまれました。

 

戦争の寵児 / シルヴァリーサーガ

 

 元ネタは『幼女戦記』の主人公「デグレチャフ少佐」本人。

 

 「不敗なるもの / アンディフィーティド」や「英雄殺し / エースキラー」と同系統の元ネタを、Dロイスとして適切なインパクトとパワーレベルに収めつつ、できれば新味もほしい、といった要件がありました。

 達成値関連の表現力は「英雄殺し」で使い切ってしまっていたため、必然的にクリティカル値を題材にどうにかする必要があります。「不敗なるもの」と区別するなら、回数を緩和する、いっそ常用できるくらいにするという方向に余地がある気がしました。

 ただまぁ、クリティカル値の操作はルールマネジメントの観点ではわりと繊細な領域です。あんまりうかつなことはしたくない(「不敗なるもの」は下限値が低いうえに1回制限があるからそこまで問題が大きくなりませんが、常用されるとなにかが起きるおそれがある)。そこで、既存の(複雑でない効果の)エフェクトの下限値を下げることで、パワーレベルと新奇性、そして安全性を両立しています。

 

銃匠 / カラミティ

 

 元ネタらしい元ネタはなく、「銃火怒涛 / フレイムコーラー」同様に「銃関連」を志向したデータです。しいて挙げれば、『幼女戦記』で何度か描かれた長距離砲撃を表現できるようにはしたかった。

 

 データ面のテーマは、「このゲームにおける銃火器の不自由をクリアする」です。ミリタリーネタをあつかう以上はリアリティにいくらか意識を向けたいところですが、銃火器のアイテムデータがその観点ではめちゃくちゃにすぎるので、そこを補えるデータがほしかったのです。