防衛戦のデザイン
本稿は、「TRPGの戦闘において〝防衛戦〟をデザインする」ための知見を記すものです。
次の性質をもつゲームを主に想定しています。
- シナリオやセッションのフォーマットとして「最後に戦闘をして終わる」構成がデフォルトである。
- その戦闘は、ふつう、敵性NPCの排除を目的とする。
なお、具体的な特定のTRPGタイトルに依存する言及は、可能なかぎり避けています。
防衛戦=「なにかの防衛を目的とする戦い」
防衛戦とは、「なにかの防衛を目的とする戦い」です。
「なにか」とは「領土」「施設」「要人」など、「防衛」とは「侵入を防ぐ」「破壊を防ぐ」などである場合が多いはずです。
勝利条件=「終了するまで防衛対象が損なわれないこと」
ふつうの(=敵を排除する)戦闘ならば、「敵を排除すること」が勝利≒終了条件です。
一方、防衛戦ならば、「防衛対象が(規定以上の)被害を受けないこと」が勝利条件……ではあるものの、じつは、この定義では不十分です。正確には「終了するまで防衛対象が損なわれないこと」です。そうでなければ(防衛する期間を区切らなければ)、勝利できないからです。
この終了条件は、おおくの場合、「一定のゲーム内時間の経過」または「敵戦力すべての排除」です。
敵の殲滅を推奨しない
上では、終了条件として「敵戦力すべての排除」を挙げました。これは『アークナイツ』や『十三機兵防衛圏』などのタワーディフェンス系の電源ゲームでも多く採用されている終了条件です。
しかし、(本来は防衛戦をする想定ではない)TRPGで防衛戦をデザインする場合には、この方法による勝利≒終了を推奨すると、防衛戦っぽくなりづらい傾向にあります。
なぜならば、その方向にプレイヤーの行動を誘導してしまうと、それは「敵を排除する」ふだんの戦闘と似た雰囲気になりがちだからです。(タワーディフェンスゲームがこの条件なのは、「原則すべての戦闘が防衛戦ゆえに差別化が必要ない」のが大きい理由のひとつです)
具体的には、「先制して、広範囲に、大火力を叩き込む」プレイングが推奨されてしまいます。これでは通常の(防衛戦ではない)戦闘です。
ですから、「一定時間の経過」を終了条件とし、そこまでの防衛をもとめる形をとるほうが、防衛戦らしく感じさせやすいのです。
その際、終了条件は、事前に明確に提示すべきです。(勝利条件のあいまいなゲームはきわめてストレスフルなものです)
(場合によっては、プレイヤーキャラクターの行動(魔術儀式の完遂など)によって終了が前倒しになる仕掛けがありえますね。そのような事前に提示すべきです)
防衛要素の実装
防衛戦ですから、当然、「防衛する対象」が必要です。それを実装します。
フレイバーとしては「領土」「施設」「要人」などがメジャーどころでしょう。
最も率直に実装するならば、「防衛対象はHP(やそれに準ずる値)を持ち、敵がそれを直接的に攻撃して減らしていく」あたりでしょう……が、これは(本来は防衛戦をする想定ではない)TRPGで表現すると、困ったことになりやすいアプローチです。
具体的には、「ほかのキャラクターへの攻撃に対処する手段」が少なすぎたり、プレイヤーキャラクターがダメージを受ける頻度が減ってシステムが機能不全に陥ったり(HP減少をトリガーに動作するルールがある場合など)します。
そのような問題を避ける、実装と運用が容易かつ効果的なアプローチとして、次のふたつがあります。
- 敵は防衛対象を攻撃する。ただし、プレイヤーキャラクターを攻撃できる状況ならば、プレイヤーキャラクターを優先する。
- 一定の条件(例:各ターンの終了時)を満たすごとに、生存している敵の数に応じて防衛対象が被害を受ける。
このような方法であれば、もともとのゲームシステムの動作をあまり歪めずに、PCが戦況に干渉しやすくなります。
ウェーブの導入
そこで効果的な手段が「〝ウェーブ〟の導入」です。
ウェーブとは「敵(やそれに準ずる脅威)の出現する単位」を意味し、一般に「戦闘の進行にあわせて新たなウェーブが発生していく」デザインをふくみます。
ウェーブの導入には、次の効用を期待できます。
- 広域殲滅手段の価値が大きくなりすぎない(ウェーブに分割せずにすべての敵が見えてしまっていると、とにかく「空間的な広さ」の価値があがってしまい、これは「時間的な長さ」を重視する防衛戦にとって好ましくありません)
- 盤上の要素の数が多くなりすぎない(プレイヤーに過大な負担をあたえない)
また、最後のほうのウェーブに「ボス的な存在感の敵」を用意しておくと、「山場」も演出できます。
ウェーブを導入するにあたり、ウェーブの発生条件は「絶対的な経過時間」を基準とするのがおすすめです。つまり「2ターン経過後にこのウェーブが発生する」などです。
電源ゲームであれば、「敵の数が一定以下になったら次のウェーブが発生する」「特定の敵を排除したら次のウェーブが発生する」などの条件がしばしばみられます……が、これはTRPGとはあまり相性がよくありません。「発生タイミングにプレイヤーが干渉できてしまうと、より有利になるタイミングまで遅延する」プレイングが推奨されてしまい、それは特定のPCが行動権(の一部または全部)をあきらめることにつながりやすいからです。(電源ゲームの場合、行動機会が膨大であったり、自重するところまでふくめての技量を競う性質があったりするため、そこまで問題にはならないのですが)
敵を多めにする
防衛戦においては、敵の数は多め(ともすれば多すぎるくらい)にするのが無難です。
理由の第一は、「戦闘を想定しており、通常は敵を排除して勝利となる」ゲームシステムにおいては、プレイヤーキャラクター側に「敵を排除する」手段が(ふつうは)最も充実しており、これを活用するためです。(「可能であれば敵を何体か倒し、その分だけ被害を減らす」プレイングを推奨する形です)
理由の第二は、(とくにウェーブを導入した場合など)盤面から敵がいなくなる(またはいちじるしくすくなくなる)と、プレイヤーキャラクターが手持ち無沙汰になってしまうから、それを避けるためです。
「プレイヤー側が最善を尽くしても敵がそれなりに残る」くらいが適切です。
ただし、数多くの敵のすべてが能動的に行動すると、プレイヤー側の手番でない時間が多くなりすぎてしまいます。
それを避けるため、「他の敵を強化するが、行動しない」敵や、「ターン終了時に防衛対象に被害を与えるが、行動しない」敵、「プレイヤーキャラクターが近づくとそれに自動的にダメージを与えるが、行動しない」敵などの、「能動的に行動しないが脅威となる敵」をそれなりの割合で混ぜて、敵側の手番を減らす工夫が考えられます。
戦場は狭すぎず広すぎず
防衛戦の戦場は、狭すぎずも広すぎずもしない規模が理想的です。
これはどちらも「防衛戦は、ただ攻撃するだけではない」(ただ攻撃しているだけで終わると防衛戦っぽくない)ことに因ります。
狭すぎると、「敵を射程に捉えて攻撃する」を、なにも考えずに実践しつづけるだけで済んでしまいます。
広すぎると、ただ攻撃する以外のことを考えるには複雑になりすぎてしまいます。(そして、「広さ」に関連するデータの価値が大きくなりすぎて、防衛戦らしさをスポイルしてしまいます)
目安としては、「戦場内に現実的にありえる最大の距離を基準に、標準的なプレイヤーキャラクターが1回の手番で3~7割ほどしかカバーできない」くらいでしょうか。(ゲームシステムによって詳細は変わるものの、1回の手番で端から端までいけるようでは判断を迫れませんし、2回の手番でもカバーできないほど広いと検討をむずかしくしすぎる(※二手先を考えるのは一般的にむずかしい)傾向にある、といえるでしょう)
おわり
以上、防衛戦を想定していないTRPGで防衛戦をデザインするための知見でした。
世に防衛戦シチュエーションが増えることを期待しています。