『アンサング・デュエット』紹介 ~ “セッションするふたり”を支持するゲーム

(本稿は、かつて別の場所で公開していた記事を、編集のうえで再録したものです) 
 
 『アンサング・デュエット』(2020-10,著:瀧里フユ/どらこにあん,富士見書房刊)というロールプレイングゲーム。著者は、相対時間で約2年前(2018-09)にTRPG『銀剣のステラナイツ』をリリースしたひと(たち)です。 
 
 
  これがたいへんにすばらしいゲームなので、そのすばらしい点をいくつか、かいつまんで紹介します。
 
 

目次

 

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(イラスト:Neg)

 

 

 

どういうゲーム?

 さて、すばらしさのまえに、どんなテイストのゲームなのかを紹介しておいたほうがよさそうです。

 といっても、著者みずからによる紹介ツイートが、端的によくまとまっていますから、そちらをごらんください。 
 
 min.togetter.com
 
  しいて個人的なイメージを添えるならば(※ほんとうに個人的なものです)、『アライさんマンション』とか『イヌカレー空間』とかで、『ICO』や『レヴュースタァライト』みたいなことをするゲームです。

 あとは、プロモーションムービーを見てもらえればわかりやすいはず。
 

 

 

見どころ×3

 『アンサング・デュエット』には多くの(ほんとうに多くの)見どころがあります。今回は、そのなかでも主に3点をピックアップして紹介します。
 
  1. 「ひとり用シナリオ」と「アレンジ用シナリオ」
  2. 見開き単位の節構成と三行要約
  3. ユーザーに寄り添う姿勢

  

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(イラスト:津田沼人)   

 

 

「ひとり用シナリオ」と「アレンジ用シナリオ」

  • ひとり用シナリオで、ゲームの雰囲気とルールがわかる
  • アレンジ用シナリオで、シナリオ作成の要点がわかる
  • 心理的障壁を飛び越えるジャンプ台

 

  『アンサング・デュエット』は、主にふたり用のゲームです。
 「[バインダー]を担当するプレイヤー」と「[シフター]を担当し、進行をつかさどるゲームマスター」のふたりです。(ゲームマスターとシフター担当を別建てするオプションルールもありますけれど)
 
 そのうえで、ひとり用シナリオが収録されています。これはおもに「ゲームを実際に体験し、雰囲気やプレイの流れをつかむ」ことを「ひとりでできるように」するべく用意されているもの、と読み取れます。

 つまり、TRPGコミュニティでいうところの「体験会」「体験卓」、あるいはボードゲームでいう「インスト」、電源ゲームでいうチュートリアルなどに相当する役割です。

 これは会話型ゲームにおける「実際にやってみないとわかりづらい」しかし「ひとりでは“やってみる”こともできない」という課題への対策であり、実際のところ、たいへん効果的な手法だとおもいます。
 「やったことがないからよくわからない」状態で他人を誘う/他人に誘われるのは、しばしばむずかしい場合もあるでしょうけれど、それをおおきく緩和する効果が期待できます。
 
 この試みにはおおきな自信があると見えて、まず、「シナリオセクション」のたぐいではなく、一番最初にある「はじめに」のセクションに置かれているのが印象的です。そして、前述のような「チュートリアルを必要としている層」にかぎらず、すべての読者が自然と通過することを推奨しているようにすら読めます。
 内容はそれに足るものであり、この“ひとり用シナリオ”を“通過”するだけで、ゲームの雰囲気から進め方までを、ほとんど体感・体得できるようになっています。すばらしい。
 
 シナリオに関しては、もうひとつ印象的な試みがあります。それは「アレンジ用シナリオ」です。
 (なお、この本には、「(前述した)ひとり用シナリオ×1」「実際にふたりで遊ぶ用のシナリオ×5」「アレンジ用シナリオ×1」の合計7本が収録されています――つまり、「ひとり用」や「アレンジ用」のために通常シナリオ用の紙幅が犠牲になっているとはいえないくらい、シナリオが充実しています)
 「アレンジ用シナリオ」とは、「おおまかな前段設定や状況の変化のさせかたなどを整理して提供したうえで、細部をユーザーがあらわすことでシナリオとして完成する」企図のコンテンツです。
 TRPGコミュニティでは、「他者の(おおくは公式の、でしょうか)シナリオを換骨奪胎して別のシナリオとする」あそびかたがしばしば見られます。ようするに、あれを推奨するのが、「アレンジ用シナリオ」です(――既知の概念でいえば、「シナリオフック」が近いでしょうが、もっと踏み込んで、完成までの見通しをたてやすくなっているものです)。
 アレンジ用シナリオ内の記述を読んでみると、ただ穴埋め的にワークをうながすのみではなく、「『アンサング・デュエット』におけるシナリオ・デザインの要点」が提示されています。いわば「実践教材つきのシナリオ作成ガイド」的な仕立てですね。
 ガイドと実際の作成が、ごく密接していますから、「アイディアはあるけどどう具体化すればいいのかわからない」みたいなことは起きづらいとおもいます。すばらしい。
 
 これら「ひとり用」「アレンジ用」に共通するのは、「(セッションの/シナリオ作成の)第一歩を踏み出しやすくする」思想でしょう。そこの心理的障壁(=未知ゆえのおそろしさ)を飛び越えるためのジャンプ台が用意されているのが、『アンサング・デュエット』というゲームです。
 

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(イラスト:風街いと)  

 

 

見開き単位の節構成と三行要約

  • ほとんどの説明が見開き単位
  • 見開きごとに三行要約がある
  • この本を読むことがストレスにならない

 

  この『アンサング・デュエット』というゲームは、内容(ルールやフレイバー)のみならず、紙面構成にもかなり工夫が見られます(――たとえば、前段で説明した「『はじめに』セクション内のひとり用シナリオ」もそのひとつです)。
 
 紙面上の工夫のなかでも、とくに象徴的な要素のひとつが、「見開き単位」「三行要約」です。(※ここで言う「見開き」というのは、本を開いたときの左側ページと右側ページを合わせた単位=まとまりのことです)
 「見開き単位」でまとめられているため、「ページをめくるときに記憶をリセットしてよい」「なにかを調べる際に複数ページにわたる必要が(あんまり)ない」性質があります。つまり、読み手(ユーザー)の負担がちいさい。これはかなり徹底されていて、シナリオセクションをのぞけば、9割5分以上の見開きはこの形におさまっているはずです。
 そして、各見開きには、「三行要約」が冒頭にあります。その見開きの要点が3行にまとめられている、ということです。これもまた、読み解く際の負荷と、調べる際の負荷を減らす効用があります。
 『アンサング・デュエット』は、「見開き単位」「三行要約」というふたつの工夫によって、「この本を読む際のストレスが最小になるように努められています。前項で述べた「ひとり用」がセッションのハードルを、「アレンジ用」がシナリオ作成のハードルをそれぞれさげるとするならば、これは「ゲームに触れる」こと自体のハードルをさげています

 そうそう、巻末の索引を見ても、1/3ページくらいしかないんですよ。索引の面積が。そのくらい「ルールを掌握する負荷」が減らされています(――ちなみに、どちらかといえば、巻頭の目次のほうを使う機会のほうが多いとおもいます)。
 

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(イラスト:mokoppe)   

 

 

ユーザーに寄り添う姿勢

  • ユーザー感情を支持する姿勢
  • 創造を応援する姿勢
  • 「表現したいものを表現できるように」

 

  ここまで紹介してきた点からも伝わっているかともおもいますが、『アンサング・デュエット』は、ユーザーに寄り添うことを是とし、その姿勢を直接的・具体的に示しているゲームです。
 
 たとえば、このゲームには「ロスト」(※一般的なゲーム語同様の「キャラクターの永続的喪失」を意味します)の概念があります。ロストしたキャラクターでは、もうあそべません……が、「それは絶対ではない」のです。「ルールとしては、ロストしたキャラクターではあそべない」としても、「ユーザー本人の感情はルールよりも優先される思想」が、それを覆し得るのです。
 実際、こんにちのTRPG界隈などで「ロストからの再起(※復活でも救済でも何でも同じです、ニュアンスが同じならば)」をもとめる例がしばしば見られるところからしても、ユーザー感情として受け容れづらいロストというのはあるわけです。そこでルールよりも感情を優先する判断をルールが支持できるのは、ゲームデザインとしては英断と呼ぶに値します。(もちろん「ロストは不可逆だから意味がある」と考えるのもまた自由かつ自然な感情のひとつであり、それもまた支持されるところです)
 
 たとえば、「空気が気まずくなったらセッションをやめよう」という旨の提言が、再三にわたって散りばめられています。
 これは、こんにちでは自然な選択肢のひとつとして推奨されるようになってきていますね。ですが、ひとむかし前ではむしろ(明示的にではないにしても)否定される向きの強かった行動だったとおもいます。そこに踏み込んで、当事者の感情を支持しているのは印象的です。
 『アンサング・デュエット』がこれをできるのは、ほかでもなく「ふたりだけのゲーム」――「参加者だけのゲーム」なら「ほかの参加者」への配慮が必要でしょうけれど、このゲームは参加者が原則ふたりだけ――だからであり、またワンプレイが1時間ほどのゲームだから(※数時間におよぶ行為をなかったことにするのはインパクトがおおきい)でもあり、多分に前提の後押しを受けてではあるのでしょうが、それでもユーザー感情を支持する姿勢は、特筆に値すると考えます。
 
 これらの支持が志向するのは、ゲームプレイであり、そしてゲームプレイを通しての、あるいは前段の(シナリオ作成など)、あるいはアフターの(セッションに対するファン活動など)、「創造」です。「自己の表現」などと言い換えてもよいでしょう。

 わたしが読み取るかぎりの『アンサング・デュエット』のデザイン方針を、ひとことであらわすのならば、「表現したいものを表現できるように助ける」ことにあるとおもっています。本文中にもあるように、ロールプレイングゲームの特長のひとつは「プレイと創造(表現)の距離がちかい」(境界があいまい、とも言い換えられる)点です。そこに着目し、応援するのがこのゲームだとおもいます。
 

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(イラスト:橋本洸介)   

 

 

そのほかの見どころ

  • 没入への配慮と専門用語アトモスフィアの排除
  • 実用に適したシナリオフォーマット
  • エレガントな感想推進&経歴記録ルール

 

 用語の取捨選択が、かなり繊細にコントロールされています。
 たとえば「TRPG」「PL」「PC」「nDm」などの文字列は(見落としてなければ)出現しません(――「ロールプレイングゲーム」「プレイヤー」「ダイス」は出現します)。
 あと、これも見落としてなければですが、「ルールブック」という表現も、使われていない気がしました。「専門用語による難しそうな空気や身内感」を排除したかったのだろうとか、「ゲームタームが没入を阻害するリスク」に敏感なのだろうとか、いろいろな想像ができます。既存のTRPG観と地続きにしたくなかったんじゃないか、とも。

 「プレイヤーの知識を問う謎解きは絶対にNG」(大意)みたいな記述もあって、これもおそらく、「プレイヤーを主体にすることで表現のレイヤーが犠牲になるリスク」を避けようとしているんじゃないかなぁ、とか。 シナリオのフォーマットも、かなり工夫されています。
 「最初の2ページはプレイヤーが読んでいい部分」と定めているのは、地味ながら革新的です。“プレイヤーに見せるべき情報と同じ見開き内に(プレイヤーが見るのは推奨されない)核心が掲載されている”シナリオとか、たまにありますからね。これもストレス要因を排除する一環、とも言えるでしょう。
 「シナリオのネタバレや配信をしてもいいかを定める項目」を、シナリオのフォーマットに組み込んでしまうのも、うまいアイディアだと感じました。“アナログゲームのシナリオネタバレの是非”は、SNSで近年よく議論されている部分であり、議論の余地をルールで解消したのは力強い判断だとおもいます(……ただし、項目名が「シナリオの公開」なのはちょっとうまくないとおもいます。「公開」の語がもつ一般的イメージと、実際の項目があつかう領域に、ズレがあるので)。
 項目には「推奨する関係性」「異界の発生原因」(≒事態のバックグラウンドをあらわすひとこと)「シフターの作成」(=救助対象キャラがシナリオ規定かユーザー任意かどっちでもよいか)などもあって、どれも「そのセッションをどうあそべばよいか」をごく端的にあらわせる、よくできたフォーマットです。読み手に解釈の手間をかけさせませんし、誤読する危険も減ります。これも低ストレス施策といえます。
 
 ところで、このゲームには「フラグメント」という概念があって、それは「そのキャラクターをそのキャラクターたらしめる要素」を意味します。「元軍人であり武器の扱いに長ける」とか「困っているひとを守らずにいられない」とか「スポーツ大会で優勝した経験」とか「顔がいい」とか「婚約者がいる」とか。セッション中に増えることもあって、上限数を超えたものは[たいせつな思い出]というゲーム外領域にプールできます。
 『アンサング・デュエット』にも、「セッションの感想をSNS等で発信するとちょっとお得」系のルールがあり――ずばり、「シナリオタイトルを添えて感想を発信すると、タイトルと同名のフラグメントを獲得できる」ルールです。
 これはきわめて(ほんとうに、きわめて)クールな発明といえます。なにがすごいって、前述のフラグメント&[たいせつな思い出]のルールと組み合わせると、「自然とセッションの遍歴がキャラクターシートにのこる」のです。フレイバー的にもメカニズム的にも意味のある、ゲームの主旨にのっとる形で。感想をもとめるシナリオ発表者と、記録をのこしたいシナリオ使用者の、利益を一致させているわけです。感想推進系の仕掛けとしてたいへんにエレガントです。
 

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(イラスト:cinkai)   

 

 

まとめ

 

  •  ユーザーのやりたいことをやりたいように支持するゲーム
  •  理解や読解の負荷が最小になるように努められているゲーム
  •  第一歩をふみだしやすいゲーム
   www.amazon.co.jp 
  この記事は、瀧里フユ/どらこにあん・株式会社KADOKAWAが権利を有する『アンサング・デュエット』ファンキットの画像を使用しています。
©Fuyu Takizato / Draconian
©KADOKAWA 

『光砕のリヴァルチャー』を4つの特長から紹介する

 『光砕のリヴァルチャー』(2021/04/21,著:瀧里フユ/宝井ロメロ/どらこにあん,新紀元社刊)を紹介します。

 

 『光砕のリヴァルチャー』とは、ロールプレイングゲームのひとつです。その概要はどらこにあんによる特設サイトをご覧ください。

 とくに「ダウンロードページ」からは、ルールブック収録のリプレイの全文に相当するPDFをダウンロードできます(――紙のルールブック向けの紙面構成そのままなので、PDFとしてはいくぶん読みづらいレイアウトではあるものの、『光砕のリヴァルチャー』の魅力がキャッチーに要約されたリプレイではあります。雰囲気を手っ取り早く掴むには、うってつけの一篇といえるでしょう)。

 また、デザイナーズノートも公開されているため、ゲームデザイン観点での関心があるひとであれば、そこから読んでもよいかもしれません。

 

 以下、今回は、『光砕のリヴァルチャー』のなかでも4つの特長にしぼって紹介していきます。

 

 

 

特長①:とっつきやすい戦闘データ構造

 

 『光砕のリヴァルチャー』の中心(の半分)は、戦闘です。セッションには常に戦闘がありますし、キャラクターは常に戦闘要員として造形されますし、セッション内での時間配分においても戦闘の占める割合が大きくなっていますし、そして、戦闘ルールはゲームとして魅力的にデザインされています。

 

 この「戦闘」を遊ぶにあたっては、(多くのゲームの例に漏れず)「戦闘データの構築」が必要です。武器とかアビリティとか、そういうやつです。

 その「戦闘データ」がとっつきやすい(別の言い方をするなら〝つまづきづらい〟)ようになっているのが、『光砕のリヴァルチャー』の特長のひとつめです。その理由は、おおきく3点からなります。

 

 理由のひとつめは、単純に、意思決定の回数が少ないからです。フレームひとつを選択、ウェポンふたつを選択、クロニクルふたつを選択――しめて5回です。これはたとえば、どらこにあんの過去作『銀剣のステラナイツ』(※スキル5つを選択)と同程度です(……というか、「何番の枠に置くか」を考慮しなくてよい分だけ、『ステラナイツ』より平易とすらいえるでしょう)。

 

 理由のふたつめは、個々の選択肢(=個々のデータ)間における性能の優劣差がちいさく、組み合わせによる相性の問題もあまりないからです。

 くだいて言うなら、「これは必須」「これはハズレ」「これとこれは両立できない」「これとこれの組み合わせが強すぎる」などの現象が発生しづらく、(発生しないのだから)そういった洞察や知見が必要とされない……ということです。(「最低限度の注意すべき点」みたいなものはあれど、それはp36に記載されています)

 

 理由のみっつめは、性能以外の判断基準が提供されているからです。

 前述の点(=ふたつめの理由)により、「性能を価値基準とする判断の負担を減らす」と同時に(またはその代わりに)、それ以外の価値基準が提示されているのです。その基準とは、具体的には「ストーリー」です。

 「ストーリー」とは、「そのデータが示す兵器や技術にまつわる、掌編小説のようなもの」です。この「ストーリー」は、すべてのデータに用意されており、それぞれに魅力的な内容となっています。これを判断材料として、つまり趣味嗜好の赴くにしたがってデータを選択できます(むしろそれが推奨されています)。言い換えると、「〝好みで選んでよい〟というポリシーが、(建前ではなく現実的かつ効果的な手段として)実現されている」のです。


特長②:関係性を表現する手段の充実

 

 戦闘とならんで『光砕のリヴァルチャー』の両輪を成しているのが、「関係性」です。

 『光砕のリヴァルチャー』は、端的に言って、キャラクター同士(シュヴァリエとフィアンセ)の関係性を表現する遊びです。とくに、これを〝短時間で、できるかぎり濃密にする〟ことが志向されています。

 それを支える道具立てとして、「あなたの物語(フィアンセ)」「呼び方」「感情回路」の3つがあります。この3つの手段を利用することで、おのずと(短時間で・濃密に)関係性を表現できるようになっています。

 

 「あなたの物語」とは、キャラクターのバックストーリーにあたる設定です。

 これは、表(チャート)から選択する形式になっており、シュヴァリエ(※プレイヤー側のキャラクター)とフィアンセ(※GM側のキャラクター)で、表の内容が異なります。

 シュヴァリエ側は「社会とのつながり(――社会を理由とする戦いの動機、または戦いにもとづく社会での立場)」を表現するラインナップとなっている一方、フィアンセ側は「シュヴァリエとのつながり」を表現するラインナップとなっています。

 これが、関係性の最初の手がかりになります。

 

 つぎに、「呼び方」――「パートナーをどう呼ぶ?」「パートナーにどう呼ばれたい?」のふたつの項目を、それぞれのキャラクターが設定します。

 呼び方で「相手への態度」を表現する定番の手法に加え、(「どう呼ぶ?」だけでなく)「どう呼ばれたい?」を設定するわけです。これにより、重層的に「関係」が形成される仕掛けになっています。

 

 上記のふたつが関係性の基盤となったうえで、決め手として、《感情回路》があります。

 《感情回路》とは、「戦闘において一種の切り札・奥の手として作用する、フィアンセの感情に由来するゲームリソース」です。

 この《感情回路》は、「具体的な感情の内容を設定し、また使用時にそれを描写する」ことが想定されています。つまり、「戦闘のなかで感情を発露する」または「感情が戦闘の決め手になる」描写が自然と発生する手段となっています。

 

 

特長③:高速戦闘を高速に実現する戦闘ルール

 

 特長の第三は、「〝高速戦闘〟を〝高速〟に表現できる」戦闘ルールです。

 

 これはまず、『光砕のリヴァルチャー』の戦闘が「1対1」である点に由来します。

 身も蓋もない話ながら、「自分でも敵でもない誰かがうごいている時間」が短ければ、その分だけ高速に感じられるものです。

 また、「1対1」ならば「誰を対象とするのか」の概念がゲームから(ほとんど)消えて、その宣言や確認のプロセスが不要となる面でも、高速化に寄与します。

 

 そのうえで、高速戦闘を支える最大の発明は、「リアクションドクトリン」です。これは、「リヴァルチャー(=プレイヤー側)が攻撃をするごとに、敵が所定の法則にしたがって必ず何らかの対応行動をする」というフォーマットです。

 〝高速戦闘〟――言い換えると「高速でのアクションの応酬」をルール化するなら、それはたいてい「互いの行動に対応行動を差し挟む」方向性になります。しかし、「対応行動をできるかできないか(するかしないか)」の判断や、その宣言を待つためのタイムラグは、〝高速〟にむしろ反する要素となってしまいます。

 しかしそこで、「所定の法則」で「必ず」行動をするとフォーマットで規定されているならば、時間的ロスは最小限となり、期待どおりの〝高速戦闘〟表現へとつながります。(このフォーマットは、敵側の「機械兵器である」設定と調和している点でも、うまいゲームデザインといえるでしょう)

 

 

特長④:ワンオンワン構図の効果的な利用

 

 第四の特長は、「〝ワンオンワン構造〟を活用し、またその課題を解消している」ゲームデザインです。

 

 『光砕のリヴァルチャー』は、プレイヤーとGMがひとりずつ、それぞれ(原則)1人のキャラクターを担当して、すなわちワンオンワンの構図でセッションをおこなうロールプレイングゲームです。

 ここで、GM側のキャラクター「フィアンセ」を、世界設定の面と、セッション進行の実務の面、それら両面で名実ともに「ナビゲーター役」としているのが、デザインの巧みのところです。

 

 具体的には、

 

  • これは「戦闘の主導権をプレイヤー側キャラクター=メインパイロットに自然に渡せる」ところからはじまり、
  • 同時に「GM側キャラクター=ナビゲーターのほうが情報面のアドバンテージをもっているのが自然な構図」をつくり、
  • 「関係性の主導権はむしろ(常にシナリオの全容を把握している)GM側キャラクターに握らせて牽引」させ、
  • 「敵の運用に関してGMの判断を不要とし、思考リソースを圧迫しないと同時に、GMがプレイヤーの敵にならないように配慮」されている。

 

 ――大きなところだけとりあげても、ざっとこのくらいは、「GM側キャラクター=ナビゲーター」の世界観による恩恵があります。

 このように配役と実務が調和していると、実際のゲームプレイ上での不自然さがなくなって、それはストレスの少なさと進行の軽快さにつながっていきます。短時間で満足度の高いゲームを志すうえで、これはたいへん有利な、よく考えられた点といえるでしょう。

 

 

まとめ

 

  • 戦闘データがとっつきやすい(戦闘重視ゲームの宿痾への対処が試みられている)
  • 関係性を表現するために過不足ない手段がある(あるものをあるとおりにつかっていくとイイ感じの関係性が仕上がる)
  • 高速戦闘を実際に高速に進行できる(戦闘が円滑で体験とフレイバーがマッチしている)
  • ワンオンワン構図を使い倒したゲームデザイン(利点は最大限に活かされ、欠点は対策されている)

 

 という感じで、キャラクター関係性&ロボットバトルをあそべるロールプレイングゲーム『光砕のリヴァルチャー』紹介記事でした。

 

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クルーエルフロントのデータデザイン

 『クルーエルフロント』専用データのデザインをふりかえります。

 

 

 

デザイン基本方針

 

 まず、(PCプレイアブルの)ユーザーメイドデータをデザインする際の一般的な留意点として、

  

  • 標準データと並べたときにパワーレベルで見劣りしない
  • 標準データをスポイルしない

  

 ――の、ふたつがあります。

 

 「パワーレベルで見劣りしない」ようにする理由は、ストレスなく使えるようにするためです。

 理由をさらに分解すると、まず単純に「強いものは使いたくなり、弱いものは使いたくならない」というのがひとつあります。「あえて弱いキャラクターをつくりたい」などの尖った趣向が介在する場合をのぞいて、原則的には弱いデータはこのまれません

 また、そのセッション専用( or シナリオ専用)のオリジナルデータがある場合、「どうせなら使いたい」というバイアスがかかります。デザイナー側からするとこのバイアスはたいへんありがたいものですが、しかし、「どうせなら使いたい」と「でも弱いしな……」は同時に発生する心情です。このふたつが発生して衝突すると、けっこうなストレスをうんでしまうので、「でも弱い」とならないだけのパワーレベルは確保しておくほうが無難です。

 

 「標準データをスポイルしない」ようにする理由は、選択肢を狭めないためです。

 ユーザーメイドデータだけで十分な(標準データに匹敵する)数を確保できるならともかく、そうでなければ、「もうユーザーメイドデータだけあればいいんじゃないかな」みたいなバランスになってしまうのはいただけません。キャラクタービルドの選択肢を狭めてしまうからです(――たとえば単純化すると、100の標準データがスポイルされて20のユーザーメイドだけが残るなら、バリエーションは5分の1になっている、みたいな話です)。

 したがって、標準データは標準データとして価値を維持できるように留意しておくべきなのです。あらゆる標準データの価値を一切そこなわない、とまではいかずとも、可能なかぎり注意をはらって、それでもスポイルするなら自覚的であるべきです。(ただし、「もともと採用に値しないような標準データ」には気をつかう理由はありません。スポイルしても選択肢が減りませんからね)

 

 以上二点をふまえると、デザインのアプローチはだいたい次の6つになります。

 

  • 標準データの範囲ではできなかったことをできるようにする
  • もともと採用されないほどパワーレベルの足りない標準データを引き上げる
  • パワーレベルが低めだが、取得コストも小さくする(にぎやかし
  • あきらかにパワーレベルが高いものを、納得できる形に整えて提供する
  • パワーレベルを高めにしつつ、回数制限などの制約によって安易な上位互換にならないようにする
  • いずれにせよ、標準データに頻出する効果はできるかぎり避ける

 

 以上の、メカニクス面の制約とは別に、今回のデータはその趣旨からして、「元ネタ(『幼女戦記』)か、すくなくともそれに類似するミリタリーや架空戦記のネタでなければならない」というフレイバー面の制約もありました。

 

 といったところで前置きを終えて、個別のデザインに言及していきます。

 

 

エンブレムデータ

 

即応戦闘 / イミディエイト

 

 元ネタは『幼女戦記』に何度かある「休んでる状態からいきなり任務に叩き込まれる」展開。

 

 効果としては「侵蝕率不足による機能不全を(まぁまぁの確率で)避ける」ためのもの。この方面の効果は標準データにはろくに存在しない(『HR』の「スタヴェイトD」がこの系統ではあるものの、論外に弱い)わけですが、侵蝕率を(低めに維持するのを渋るならともかく)高めにするのをそこまで厳しく見る必要はない……というか、『RU』や『RW』での制限エフェクトの拡充をふまえると、むしろどんどん開放していくべき領域のはず。なのでかなり自由が利くようにして、取得コストも「なんとなくで払える」くらいまで落としています。

 

嗜好品 / スティミュラント

 

 元ネタは『幼女戦記』に度々出てくる「酒」「タバコ」「チョコレート」「コーヒー」「イヌ」など。

 

 効果は「衝動判定への保険」。暴走すると困るキャラクターというのはいる、というか高経験点になるとたいていのキャラクターはそうなる傾向にある一方、そこへの対策にあまりコストをかけるのもそれはそれで躊躇われる……というジレンマを解消するためのデータ。

 そもそも「衝動判定に失敗して暴走する」体験は、だいたい余計なストレスかなという気がしています。意図的に配置されたやつならまだしも、形式的にやる衝動判定で暴走させられてもなぁ、という。

 

地獄の匂い / サバイバー

 

 元ネタは「ライン戦線からの生還者」。

 

 効果は「キャラクタービルド上の軽微な不自由をまとめてクリアする」もの。具体的には、シンドロームごとの能力値に由来する問題への処方になるくらいを想定しています。

 常備化ポイントと財産ポイントを別個に記述することで、「継続的な地位の向上」と「臨時の報酬」を表現できるように試みました。

 後述の「傑出戦功」とすくなからず被ってしまっているのは、いま見るといまいちですね。

 

銃火怒涛 / フレイムコーラー

 

 特定の元ネタはなく、銃使いキャラクター全般を支援するデータ。銃自体は近代戦争やミリタリーと親和する、という考えです。

 

 効果は弾系のアイテムデータの利用を簡単にするためのもので、「いくつ常備化するか決めかねる」「何度も購入判定をするのはわずらわしい」などの問題に対し、「じゃあ無限に使えればいいんじゃない?」を解答としました。

 “種別から「使い捨て」を削除して「エンブレム」を追加”すると「無限に使えるが他人には渡せない」を綺麗に書ける、という発想は非常にクールだと感じています。

 

代替手段 / ラストリゾート

 

 元ネタは、主には『幼女戦記』のノイマン(人名)が銃で敵兵を殴打した場面。それにかぎらず一般的に(フィクションにおいて)、銃を鈍器にする演出はちょくちょくありますね。

 

 効果はそれをそのまま再現する、つまり「種別:射撃」の武器を白兵攻撃に使えるようにするためのもの。至近不可の射撃武器を持っててエンゲージされたときへの保険というか。

 逆(「白兵武器を射撃攻撃に」)は標準データにあります(《魔弾の射手》)から、ルール面な破綻はきたさない(正確には「破綻したとしても元から存在し得る破綻でしかない」)とはわかっています。

 課題は「銃で殴るのが、銃を撃つより、そして剣で斬るより、いずれも強くなってはいけない」ところにありました。こんなものは(元ネタに照らしても)あくまで「やむを得ずとる手段」の位置づけでなければならないのですが、でも「それが強いなら常時それを使う」のはプレイヤーとして自然な心理です。ならば、とにかく銃で殴るのが強すぎるようではいけません。

 さらに、「拳銃で殴る」のと「巨大なガトリングガンで殴る」(ノイマンがやったのはこっち)のとでは威力が変わらないと不自然ですから、あるていどは性能が変動しないとなりません。

 とはいえ、射程は至近で固定に決まっていて、命中修正は射撃武器と白兵武器とのあいだに差はあまりなく、もともと似たりよったりです。となれば、強くなりすぎるかどうかは、ひとえに攻撃力の設定にかかっています。

 初期案では、「元の(射撃武器としての)攻撃力をベースにいくらか算数する」データでした。拳銃とガトリングガンでの威力の差がシンプルにあらわれるからです。しかしこれには問題があって、このゲームの標準データにある射撃武器(とくに大型の火器)は、わりと白兵武器より攻撃力が高いのです。『ルール1』p177にかぎっても、日本刀(5)、チェーンソー(6)、大岩/巨木(8)などにくらべて、大型拳銃(5)、アサルトライフル(9)、スナイパーライフル(11)などの数値がならんでいます。レッドテンペスト(22)での打擲が両手剣(10)より強くては困ります。

 しかも、とくにユニークアイテムなどの場合、射撃武器の攻撃力は高めに設定されやすい傾向があります(じつとレッドテンペストをみる)。そうなると、銃の大きさというよりは風格が威力につながってしまいます(が、打擲のごとき蛮行に風格が関係すべきではない)。このことからも、元の攻撃力を基準にするのはうまくないアプローチでした。

 代わりに目をつけたのが「(元の)射程」です。射程であれば、ユニークアイテムなどであってもおおむね通常のアイテムと同程度の水準に収まっています(――まぁ、射程を大きくしても現実のプレイでの意味がほぼありませんからね)。射程を元に算数をしましょう。アサルトライフル(150m)やスナイパーライフル(200m)がまぁ許せる範囲の攻撃力に収まって、できるかぎり計算が用意なもの――ということで、「射程÷20」に。これだけだと、けっきょくただのライフル打擲が日本刀より強いことになってしまうので、丸めるために「最大【肉体】」をつけました。膂力があれば銃で殴っても強い(=膂力がなければあんまり強くない)、というのは直感的に納得しやすいですし、元が銃を使うキャラクターの場合、たいていは【肉体】が低く、実際に日本刀(5)や両手剣(10)を安易におびやかすほどの数値にはならないはずだからです。

 最後に、「打撃に使ったら壊れるかもしれない」リスクをつけました。とにかく常用されては(フレイバー面で)困る以上、常用をためらわせる材料が必要だったからです。出目1ではなく10を条件としているのは、「ダメージが多く出たときに壊れるほうが、利益と不利益がいくらかでも釣り合って納得しやすい」と考えたためです。

 

傑出戦功 / マギステル

 

 「白銀」とか「銀翼突撃章」とか言うためのデータです。『2nd』時代に「マギステル」の名を冠するなにかがあったことは公然と無視しました。

 

 『幼女戦記』を踏まえてエースを表現するなら、こういうニュアンスのデータは確実に必要でした。このゲームはもともと大半のキャラクターがコードネームをもつからこそ、特別な称号は特別な実装で保証されなければならないのです(――標準データだと、マスターエージェントのエンブレムデータが類似の方向性ですね)。

 キャラクター表現の要として提供するデータゆえに、「できるかぎり誰にとっても平等に有用」で、しかし「このデータがキャラクターデータに特定の方向性を与えてしまわない」、かつ、「取得を躊躇わせるほどには高くない」、そして「勲章なのだから複数を取得できる(つまり累積に意味がある効果である)」性質がもとめられ、すべてを満たすための解答は「能力値を安価に稼げる」になりました。

 

 このデータの肝は、言うまでもなく「名称や背景をみずから設定する」ところにあります。プレイヤーがPCの設定を躊躇なく盛れるようにすると同時に、ステージのディティールをプレイヤー側で増やしてもらえるという目論見です。

 

戦闘芸術 / アートオブウォーフェア

 

 元ネタは『幼女戦記』にも何度かあらわれる「戦争芸術」。ただし、戦術次元でのそれそのものをPCプレイアブルにするのはむずかしい(※現実的には、戦術はシナリオの内容に振り回されがち)ので、「戦」ではなく「戦」としています。

 

 効果はデータ名からそのまま率直に起こして、「〈芸術〉のレベルを参照するボーナス」。〈芸術〉のレベルを伸ばす過程で自然とキャラクター設定が増えるはず、という目論見があります。

 

先行回収型 / インプルーヴド

 

 元ネタは『幼女戦記』の「エレニウム97式」。

 

 効果のメインは「破壊されない」部分。ステージの雰囲気を踏まえると戦闘機乗りのPCが想定され、そのヴィークルが壊れかねないようでは(プレイヤーにとって)困る、という理由で用意されたデータです。武器を破壊されなくするとパワーレベル面の危険性が大きい(あと「エピック」をスポイルしてしまう)ため、防具かヴィークルに限定しました。

 主眼は上記のとおりでありつつも、「破壊されない」だけだとメリットが狭すぎるため、ほかにも普遍的な選択肢をいくつか用意しています。「破壊されない」は武器におよぼしたくはないとして、(装備関連の表現をここに集約したかったので)武器にまつわる効果はあるべきだと考え、攻撃力とガード値を直截的に上げる実装でこれを満たしています。

 

戦争屋 / ウォーモンガー

 

 元ネタは『幼女戦記』に頻出する「戦争狂(ウォーモンガー)」というフレーズ。「狂」ではない表現にしたのは、このゲームだと「狂」には精神的不利益(=暴走や憎悪)のニュアンスがあるため。

 効果を起こすにあたっては、「脳内麻薬術式」を元ネタとしています。

 

 効果は「ドラッグ系アイテムの実用化」。「銃火怒涛 / フレイムコーラー」とほぼ同様の構造です。ドラッグ類はタイミングと侵蝕値の観点でかなり不自由なのに、入手まで困難だと使いづらすぎる、だからそこをクリアしてみよう――というデザイン。

 

腹心 / クロックワークス

 

 元ネタは『幼女戦記』の「セレブリャコーフ少尉」。

 

 効果のメインは、「(限定的な)侵蝕率制限の無視」。対象と難易度にまつわる制約から、《リミットブレイク》とはあまり被らないようになっているはずです。「打ち消されない」「対象を変更されない」は(プレイヤーにとっての)安全装置であり、これはキャラクター性に深くかかわるエンブレムデータなので、その効果を受けた行動が妨害されるようでは困るだろうから用意されたものです。歯車は狂ったりしません。

 カラー効果の切り替えは、元ネタを意識した、つまり「ヴィーシャからデグさんへのカラーをWHかPUの一方とするには無理がないか?」という疑問を回避するために実装されました。

 

コネ:後方の理解者

 

 元ネタは『幼女戦記』の「(ターニャから見た)レルゲン中佐」。

 

 効果は「汎用的な判定補助」。達成値の部分は標準ルールと同じレートなので、実質的には「前払いの代わりにダイスも増やせる」という意味合い。いま振り返るとパワーレベル不足というか、どうせ財産ポイントを要求するなら回数制限はもっと緩くてよかった気がしますね。

 

コネ:耳聡い同胞

 

 元ネタは『幼女戦記』の「エーリャ」。

 

 効果は「〈情報:軍事〉判定への強力な補助」。「(データ面でも設定面でも)情報収集が苦手」なキャラクターをやりやすくするためのもの。軍人PCとなれば武勇特化の造形をしたくなる可能性が想定されて、それでも(ゲーム便宜のために)情報収集能力を最低限度は確保しようとしたときにキャラクター性をできるかぎり損なわないように、コネひとつで済ませられるようにしてみました。

 

対超人兵士戦闘教義 / アンチオーヴァードドクトリン

 

 元ネタは、近現代の軍事一般における「ドクトリン(戦闘教義)」の概念。『幼女戦記』にも頻出する語句ですね。

 

 効果は、実質的には「〈知識:〉を安価に取得できる」もの。エリートコース系のキャラクター造形を補助する意図です。

 

時を超えた提案書 / デモンズオファー

 

 元ネタは『幼女戦記』の「悪魔の計画書」。このゲームで「計画(プラン)」やら「悪魔」やらと言ってしまうと別のニュアンスが混入するので、それを避けるようにネーミング。

 

 効果は「アージエフェクトの補助」。「ストレス」を表現する衝動判定によって「足りない侵蝕率を稼ぐ機会」を提供したうえで、本来のタイミングを無視して使用できるようにするものです。アージエフェクトは(『RU』リリース当時における)ある種の合理的な理由によってタイミングがわりと変則的であるわけですが、現行のゲーム環境においてはそこが不自由だったりもする、ならばタイミングを緩和してしまえ――というデザインです。

 

特記戦力 / ネームドソルジャー

 

 元ネタは『幼女戦記』における「ネームド」(他国、とくに敵国から個別に認識されているほどの兵士)の概念。

 

 「ネームド」とはなにか? 「有象無象ではない」ことです。

 

 ――というところから考えて、効果は「トループに対する圧倒的優位」に。ただし、そもそもトループは(たいていの場合は)弱いエネミーであり、格別の対策が必要ではないとも言えます(――なのに標準データにあるトループ対策(《ソニックブーム》等)は、メジャーアクションを実質的に占有してしまうせいで採用されないわけですね)。なので「能力値を増やす」効果で実質的な取得コストを10点分ほど割り引いて、両者を調和させるために「その能力値を使用した判定」という制約をつけました。

 

戦闘機動 / バトルフィールドマニューバ

 

 『幼女戦記』を意識するうえで避けては通れないモチーフ。

 あの作品の戦闘描写の肝のひとつは「航空機動」にあって、しかしこのゲームは本来それをまともに表現できない(《天を統べるもの》の効果はニュアンスがちがいすぎる)ので、なにかしら用意しなければならかったわけです。

 

 高速戦闘での機動を表現するなら、移動をタイミングの観点から補助すべきなのはまちがいないところです。「いつでも」はやりすぎ――『2nd』の待機ルールはわるい文明――として、とりあえず標準データにもあるセットアップとマイナーは可、じゃあイニシアチブ(《異形の転進》)も……とはなりませんでした。イニシアチブでできる行動がむやみにあると、戦闘の進行を滞らせてしまうからです。代わりにクリンナップを追加。

 移動効果までをエンブレムデータに内包すると、標準データの移動エフェクトがスポイルされてしまうため、元のエフェクトは標準データ側から取得させるように調整しました。

 

帝国魂 / ブレイブリー

 

 元ネタはよくある「○○(国名)魂」の概念。「大和魂」とか。

 

 つまりは敢闘精神のことであり、効果は「戦闘不能などの不利益を免れる」系であることは確定しています。初期案では直截的に「戦闘不能を回復する」やら「不利な効果を解除」やら書いてあったのですが、そのあたりはみだりに手を出すと妙なハックができるデータがうまれがち(&プレイヤー視点だとハックしたくなりがち)で、あんまりよろしくありません。なので明快かつ安全に、「《リザレクト》の制約を緩和する」効果としました。

 

不敗なるもの / アンディフィーティド

 

 元ネタは一般的な「常勝無敗」の概念。

 

 「負けない」といえば「対決に勝利する」が最も率直なのですけれど、その効果は標準データにも有力なやつがあるんですよね(《虚空の残影》や《月光の奏者》や「戦場の死神」、さらに言うなら「リアクション不可」などもこれに準ずる効果)。

 よって発想を逆転し、「ボーナスがあるが、負けたらペナルティ」(だからペナルティが発生しないかぎり無敗を体現できる)という仕立てにしました。「必中の弓」と同じ方向性ですね。

 対決を有利にする効果としては、特別感を重視して「クリティカル値の減少」を採用(ダイス数や達成値はありきたりすぎるため)。ペナルティ側は、「戦闘不能になる」だとむしろメリットになりかねない――なにもかも《ラストアクション》がわるい――点を考慮し、一歩下がって「HPを1にする」としました。(とくに高経験点ならHP消費や反射ダメージ等が多発するので)これでも十分な脅威でしょうし、ドッジで使って敗北したならそのまま倒れるでしょうし。

 

月月火水木金金 / 24 / 7

 

 元ネタは同名の軍歌、さらにその元ネタの旧日本軍のエピソード。

 

 効果は「使用回数制限の緩和」。「帝国魂 / ブレイブリー」とは別の方向性の継戦補助です。

 強力さが一目してわかり、それでいてパワーレベル的に壊れない(もとから3回も使用できるものが4回になったところでなにかが壊れたりはしない)、クールな効果ができたとおもいます。

 

畏怖の担い手 / ドレッドディーラー

 

 元ネタは『幼女戦記』の「“衝撃と畏怖”作戦」。内容ではなく字句の響きを借りた格好です。

 

 火力を伸ばすデータもひとつくらいは用意したいところでしたが、さりとて「攻撃力を+nする」とだけ書いても何も面白みがない、という問題があります(※標準データで最も開拓されてしまっているデザイン領域のひとつであり、ぬるい数値では見劣りしてしまうし、つよくしすぎると標準データがスポイルされてしまう)。

 ヒントになったのは、「“衝撃と畏怖”作戦」の過程で(作戦の主旨とは関係なく)使用された「酸素を焼く」攻撃や「気化燃焼術式」でした。「熱や爆圧による直接攻撃以外の副次的被害をあたえる」の因果をメカニクス上で逆転させて、「副次的効果があるほどの攻撃なら直截的効果も強いだろう」というデザインにしました。もともとバッドステータスがあつかいづらいゲームですし、そこを補助することになるのも好ましい要素です。

 

選抜兵士 / ファーストクラス

 

 元ネタは『幼女戦記』の「第203航空魔導大隊」そのもの。

 

 (「203」めいて)選抜された兵士のもつ性質とはなにか――と考えると、「技能や能力値を補強する」のは迷わずに出てきます。

 とはいえ、それだけでは地味も地味で、もっとべつの、一目してわかる(そして安定的に発揮される)強さを付加したいところでもあります。そこで地味の逆、つまりこのゲームにおける花形を考えると、それは当然エフェクトです。そのなかでも「もとから花形が務まる」ような存在感のエフェクトだと、わざわざフィーチャーする意味がありません。よって一般エフェクトをとりあつかうことに。回数制限のある一般エフェクトは、意外とシンドロームごとのエフェクトと同等の存在感があったりするので、そこを除外しつつ、「最大レベルで取得できる」効果によって「最も訓練された兵士である」ニュアンスを表現しました。

 

帝国無双 / エースオブエース

 

 元ネタは『幼女戦記』に登場する「エース・オブ・エース」(撃墜スコア一定以上のエース)というフレーズ。空戦系のフィクションには(あるいは英語として自然な“エース・オブ・エイセス(Ace of Aces)”の形でも)ちょくちょく登場しますね。

 

 効果はシンプルに「超必殺技」。エフェクトのレベルが上がれば、それは傑出した必殺技になる。じつにシンプルです。

 「打ち消されない」は「腹心 / クロックワークス」のそれと同様の理由です(=こういうキャラクター表現と密接な能力は軽々に妨害されてはならない)。

 

英雄殺し / エースキラー

 

 ここまでさんざん「エース」を持ち上げてきたので、最後にその上をいこう、というデータ。『幼女戦記』で他国のエースをデグレチャフ少佐が打ち破る展開(何度かありますね)が元ネタ。

 

 このネタをあつかうなら、エース(つまり名前つきでシナリオに出てくるような)エネミーに対して優越し得るような効果でなければなりません。より噛み砕くと、「大抵のエネミーに対して有効に作用する」「ちょっと度を越したほどにパワフル」な効果でなければならない。それでいて、もちろん「標準データをむやみにスポイルしない」ことを意識する必要もあります(ただ、これは取得コストの面で最上級のエンブレムデータ=花形になる想定があったので、いくらか標準データを犠牲にする余地はありました)。

 判定ダイス数とダメージの補強はナシ(※スポイルされる標準データが多すぎる)で、大技系のエフェクトと互換するようなものもナシ(※やはりスポイルされるものが多すぎる)。そうなると、普遍的な効果としては、達成値の補強くらいしか残っていません(――達成値を恒常的かつ直截的に増やす効果は、標準データには比較的すくなく、また規模も小さいのです)。

 これのパワーレベルは、「これの有無がかなりはっきりと勝敗を決定的なものにする」くらいであるべきなので、効果値を「+20」としました。有力な達成値操作(《現実改変》や《勝利の女神》など)はたいてい事後に使用するものであり、これと累積します(=競合しません)し、「+20」が載っていてももちろん足りないときは足りないので、じつはこのくらいやってもスポイルされないはずだという目算です。

 

 

Dロイス

 

神秘兵装 / アーティファクト

 

 元ネタは『幼女戦記』の「エレニウム95式」。

 

 

 ステージにまつわる原初のアイディアというか、ステージ化の発想が出たのが2020年4月下旬だったはずなので、原初より前のアイディアですね。

 

 「95式」を表現するデータが「どっかからアイテムをもってくる」効果なのは、(原初のアイディアであったくらいには)ひとまず疑いのないところです。

 この方針において検討が必要だったのは、そのたぐいのデータとしては《アーティクルリザーブ》や「生ける伝説」をはじめ、「装着者」や「撃墜王」や「真実を知る者」、アイテム絡みのDロイスという観点まで広げれば「秘密兵器」に「遺産継承者」、さらにノンプレイアブルながら「マジカル☆リクエスト」……と先例が大量にあることです。

 まず「他のステージのデータを取得できる」点で一定の個性は確保できるとして、数値的上限を「装着者」「真実を知る者」の倍にしてインパクトを形成。そしてユニークアイテムでも取得できるようにする代わりに、FH専用アイテムやエフェクトアイテム、シンドローム専用のユニークアイテムには手を出さない、という境界線を置いてみます。《アーティクルリザーブ》や「生ける伝説」は臨時効果なので恒常的効果のこれとは区別できますね。「撃墜王」は……元のデータのパワーレベルが低すぎて話にならないと感じたので、犠牲になってもらいました。ステージ専用のDロイスですし。

 侵蝕率基本値が増えるのは、元ネタの「精神汚染」を踏襲した実装です。

 

逸脱戦技 / エクセレント

 

 特定の元ネタはありません。戦闘機パイロットの戦技、とくに本人の名が冠されて伝わるようなものを意識しています。

 

 最初はエンブレムデータとして実装していたのですが、パワーレベルで言っても存在感で言っても抜きん出ていたので、Dロイスに格上げした、という経緯があります。

 「制限にDロイスを追加する」は「軽々に打ち消されない」という意味でもあります(必殺技が打ち消されるようではならない)。

 「今までに存在しなかったメカニクス」でありつつ、「一見して強いとわかるが壊れない(既存データがふたつに増えるだけなので壊れるとしたら元が壊れている)」点では「月月火水木金金 / 24 / 7」や「帝国無双 / エースオブエース」と、「プレイヤーの表現力を借りてディティールを増やす」点では「傑出戦功 / マギステル」と同種のデザインです。

 

超空の翼 / ナグルファル

 

 元ネタは『幼女戦記』における「航空魔導師」の概念そのもの。

 

 要するに、「飛んで戦えてそれゆえに強い」ことを表現するためのデータです。

 困ったことに、このゲーム、(超人をやるゲームなのに)意外と飛べないんですよね。継続的に飛べるエフェクトとなると《鷹の翼》や《解放の宴》などのごく少数しかなく(※移動中だけ飛行状態相当になるのは航空機動戦っぽくないためノーカン)、あとは一部のヴィークルくらい。べつに飛行状態ってさほどメリットがない(=強くない)はずなんですけど、なんでなんすかね? ……ともかく、まずは誰でも飛べるようにするために、エネミーエフェクトの《飛行状態》《飛行状態Ⅱ》を引用します。

 でも、飛んだだけではどうしようもないんですよ。繰り返しになりますが、飛行状態そのものにはさほどメリットがない(相手が飛んでなければ移動しやすい、くらい)ので。移動を補助するために(というか移動エフェクトに見劣りしないために)「封鎖の影響を受けない」効果をとりあえずつけるとして、そのくらいではパワーレベルも不足していますし、航空機動戦の表現を推奨するほどにはなりません。

 ここでドッグファイトの表現について考えると、回避行動が重要なファクターのように思われました。なのでドッジを推奨してみることに。とはいえ、もともとドッジは(わかっているプレイヤーが適切にビルドすれば)(ことさらに推奨するまでもなく)かなり強い行動ではあります。強みを上乗せするより、不自由を解消するほうがおそらく際立つ、と考えました。そして――ドッジの最大の不自由とは、「オール・オア・ナッシング(達成値がおよばなければ完全な無意味に等しい)」である点です。そこを緩和する、つまり「達成値がおよばなかったとしても意味をもち得る」ようにする効果がうまれました。

 

戦争の寵児 / シルヴァリーサーガ

 

 元ネタは『幼女戦記』の主人公「デグレチャフ少佐」本人。

 

 「不敗なるもの / アンディフィーティド」や「英雄殺し / エースキラー」と同系統の元ネタを、Dロイスとして適切なインパクトとパワーレベルに収めつつ、できれば新味もほしい、といった要件がありました。

 達成値関連の表現力は「英雄殺し」で使い切ってしまっていたため、必然的にクリティカル値を題材にどうにかする必要があります。「不敗なるもの」と区別するなら、回数を緩和する、いっそ常用できるくらいにするという方向に余地がある気がしました。

 ただまぁ、クリティカル値の操作はルールマネジメントの観点ではわりと繊細な領域です。あんまりうかつなことはしたくない(「不敗なるもの」は下限値が低いうえに1回制限があるからそこまで問題が大きくなりませんが、常用されるとなにかが起きるおそれがある)。そこで、既存の(複雑でない効果の)エフェクトの下限値を下げることで、パワーレベルと新奇性、そして安全性を両立しています。

 

銃匠 / カラミティ

 

 元ネタらしい元ネタはなく、「銃火怒涛 / フレイムコーラー」同様に「銃関連」を志向したデータです。しいて挙げれば、『幼女戦記』で何度か描かれた長距離砲撃を表現できるようにはしたかった。

 

 データ面のテーマは、「このゲームにおける銃火器の不自由をクリアする」です。ミリタリーネタをあつかう以上はリアリティにいくらか意識を向けたいところですが、銃火器のアイテムデータがその観点ではめちゃくちゃにすぎるので、そこを補えるデータがほしかったのです。

シナリオの作成① - コンセプト

 

 TRPGシナリオの作成に関する知見を記録していくシリーズの第一回です。

 

 「受け手の満足度の高いシナリオを自作する」ことを重視し、それをこころざす活動の助けとなることを意図しています。「受け手」は、たいていは「プレイヤー」とみなします。

 シナリオに由来しない種類の満足度(たとえばゲームシステムによって担保される満足度や、同卓者によって発生する満足度)については考慮しません。

 

 第一回の題は【コンセプト】です。

 

 

 

最初にコンセプト=魅力を定める

 

 シナリオを作成するにあたって、最初に、最優先で定めないと始まらないのが、【コンセプト】です。シナリオ作成の基準点、すなわちそれより後におこなうあらゆる作業の基準は、この【コンセプト】です。【コンセプト】が定まらないうちは、シナリオを実際に書き進めるべきではありません。

 

 (世間一般にさまざまな定義がありますが、本稿においては、)【コンセプト】とは【そのシナリオが提示する、受け手にとっての魅力(価値)】を指します。

 

 自分が「なんらかのシナリオに対して(実際にプレイする前に)期待をいだいたとき、どの部分にどういう期待をいだいたのか」を思い出してみてください。それがおそらく、そのシナリオの【コンセプト】(が引き出した期待)です。場合にもよるものの、プレイヤー視点での「このシナリオなら○○ができる」といった形で表現できる例が多いはずです。

 言い換えると、複数のシナリオのなかからひとつを選択するとき、その選択の根拠(のうち、非機能的要素(※著者のネームバリューや販売価格など)ではないもの)が【コンセプト】です。

 

 

重要なのは受け手にとっての魅力・価値

 

 ここで重要なのは、「受け手にとっての魅力(価値)を定める」ことです。シナリオ製作者にとっての価値ではありません

 もちろん、わざわざシナリオを書く以上は、それが書く本人にとって価値あるものとなるに越したことはありません。ですから、その観点を盛り込むのは問題ない(好ましくすらある)――のですが、シナリオ製作者側にとっての価値や満足は、受け手にとっては何の意味もありません

 製作者側の価値を追求するかしないかにかかわらず、いずれにせよ、コンテンツとして重要なのは受け手側にとっての価値です。

 

 (余談:受け手の満足を度外視するシナリオをつくるなら、話は別です。たとえば純粋な練習や実験の一環としてシナリオを書いてみるようなケース(新作ゲームシステムの勘所を掴むためにやったりしますね)では、受け手の満足は問題になりません。しかし、それは本稿の主旨を逸脱するので、考慮しません)

 

 

コンセプトの要件:既知の概念に立脚した新奇性

 

 【コンセプト】=魅力・価値とは、分解すると次の3つの要件から成ります。

 

  • 受け手にとって新奇性や希少性を感じられる
  • 受け手にとって親しみがある
  • 上記2点の相互作用により、受け手が期待を抱く

 

 これをTRPGシナリオ向けに噛み砕くと、

 

  • 受け手にとって既知の具体的な概念(作品やジャンルやお約束)にもとづいている
  • そのシステムの既存シナリオ(および多数のシナリオによって作り上げられた典型パターン)と被らない

 

 ――となります。

 

 前者、「受け手にとって既知の具体的な概念(作品やジャンルやお約束)」とは、たとえば『ジョーズ』(作品)や「架空戦記」(ジャンル)や「探偵役による犯人の指名」(お約束)などのことです。

 ところで、そもそもTRPGは、(いくらかの例外をのぞいて、たいていの場合には)複数のひと同士が、リアルタイムで解釈と表現を重ねていく遊びです。しかも、(やはりたいていの場合には)その「ひと同士」がそれぞれにもつ知識や洞察にちいさからぬ差異があります。これらを前提としたとき、セッション中になされるはずの解釈と表現の〝土台〟として、それなりに普遍的な既知の概念――作品やジャンルやお約束――が必要になってきます。土台がないと、リアルタイムでの解釈・表現に支障をきたすからです。

 ルールブック(またはそれに準ずるオフィシャル性のある文献)が提供する世界設定や、システムごとにあるシナリオの「典型パターン」は、この〝土台〟の最も手近なものです。この手近な土台でもシナリオは書けますが(というかそのための道具なのですが)、それでは(後述するような、希少性の不足から)【コンセプト】を打ち出すにあたって不都合があります。よって、システムによって提供されるもの以外の、既知の概念(作品・ジャンル・お約束)をもちこむのが効果的なのです。

 

 そういった「既知の概念」を土台に、「それゆえに具体的に想像し、期待をもてる(=魅力を感じる)」要素を【コンセプト】として打ち出します。

 そのときに重要なのが、後者、「そのシステムの既存シナリオと被らない」(より正確には、すくなくとも受け手の知見のおよぶかぎりにおいて被っていると認識されない)ことです。

 本来なら魅力あるネタだったとしても、同様のシナリオを(とくに同じシステムで)過去に遊んでいれば、本来ほどには魅力をかんじられません。ともすると、マンネリ感や飽きを感じてしまう可能性すらありますし、もしそうなってしまえば満足度は芳しくないものとなるでしょう。ゆえに、新味を感じられるネタであることが重要となります。

 

 

〝やりたい〟からコンセプトへ

 

 シナリオ製作者が「○○をしたい」と思いついた時点では、それは【コンセプト】ではありません。ただの製作者側の願望であり、○○が実現されたとしても○○が実現されているだけです。つまるところ根本的な問題として、受け手の視点が欠如しているのです。

 

 たとえば、シナリオ製作者が「西部劇の決闘っぽい場面を書きたい」と考えたとしましょう。その〝やりたい〟がそのままシナリオになったとして、それは「西部劇の決闘っぽい場面がある」だけのシナリオです。

 受け手に期待される(そして期待を満足させられる)シナリオにするなら、(願望=〝やりたい〟が出発点であるにしても)それを受け手にとっての価値(=【コンセプト】)に整形しなければなりません。

 この例でいえば、「西部劇の賞金首(あるいは用心棒や保安官など)のPCをつかって、決闘によって敵との決着をつける展開を遊べるシナリオ」くらいに整えると、それは【コンセプト】と呼び得るものになります。(※「西部劇」「決闘」が、そのゲームシステムにおいてそれなりに珍しい場合です。そもそもが西部劇で決闘をするゲームシステムなら(あるいは西部劇で決闘するシナリオがそこら中にあるシステムなら)、これらは魅力とは呼べなくなります)

 

例:

  • 「映画『ジョン・ウィック』が面白かったから、TRPGシナリオにしたい」
    ⇒ 「超絶強い殺し屋PCをつかって、大勢相手に切った張ったをし続けられるシナリオ」(※「超絶強い殺し屋PC」や「大勢相手に切った張ったをし続ける」に希少性があると仮定)
  • 「映画『ジョン・ウィック2』の武器ソムリエがオモシロかったからNPCとして出したい」
    ⇒ 「ミッション出撃前の武器の調達シーンが重要(そのあとを左右する)シナリオ」(※「セッション途中での武器の調達が重要になる」性質に希少性があると仮定)

 

 

コンセプトは具体的に

 

 【コンセプト】は、より具体的なほうが好ましいものです。なぜなら、そのほうが、より明瞭で強力な期待をいだいてもらいやすいからです。

 

 上で書いた「西部劇で決闘ができるシナリオ」の例でいうなら、それを賞金首としてやるのか用心棒としてやるのか保安官としてやるのかで、期待の性質が変わってきます(――「賞金首でありながら決闘(という一種の儀式)に則って決着させる」「用心棒として武勇を遺憾なく発揮する」「危険を顧みず保安官としての職業倫理に殉じる」では、それぞれ風情=魅力がちがいますよね)。いずれであるにせよ、それが具体的ではっきりしているほうが、確固たる期待へとつながりやすいものです。

 

 これがもし「アツい決闘ができるシナリオ」くらいだと、ちょっと具体的な期待をもつのはむずかしいと考えられます。自由勝手な想像をめぐらせることはできても、それがシナリオの実態に適っているかは、かなりうたがわしい……というか、まぁ結構な割合で外しているでしょう(上記の三種の三択でも、三分の二は外しますからね)。

 〝やりたい〟衝動を洞察・分解し、「映画『○○』の○○の場面みたいなアツいシナリオにしたい」であるとか、「特定の既存PC(熱血漢)を招いて映えるシナリオにしたい」であるとか、「クライマックスでPCが敵に対して決め台詞と銃口を突きつけるシナリオにしたい」であるとか、「『○○』という曲が似合うシナリオにしたい」であるとか――そういった具体性を見出すことで、それを受け手にとっての価値に整形できます。

PC秘密情報のメカニクス

はじめに(本稿の内容と意図)

 

 本稿では、TRPG(やそれに隣接するゲーム)における「PC秘密情報」メカニクスを列挙していきます。

 

 本稿は、「PC秘密情報や関連ルールを、解釈または実装する」活動への補助を意図するものです。

 

 

 

用語

 

  • マスター ―― 多くのゲームが「ゲームマスター」と呼称する参加者(の役割)です。進行の主導権と、ゲームの大部分について強力な決定権をもつ場合がほとんどです。後述の「プレイヤー」と兼務する可能性は、本稿では考慮していません。
  • プレイヤー ―― それぞれが原則ひとりのキャラクターをあつかい、おもにそれを通してゲームに干渉できる(する)参加者です。そのキャラクターを「プレイヤーキャラクター」または「PC」と呼称します。ゲームひとつにおけるプレイヤーの人数は、すくなくとも1人から、たいていは4,5人くらいまでの幅をとります。
  • PC秘密情報 ―― いずれかのPCに割り当てられる、プレイヤーやPCの一部(多くは本人以外)からは参照できない情報です。本稿の主題です。ゲームの種類あるいは個々人の語彙によって「秘匿情報」「裏ハンドアウト」などさまざまに呼ばれます。PCでないキャラクターや物品などに設定されているものはふくみません。以下では単に「秘密情報」とだけ記述した場合も、「PC秘密情報」と同じ意味をもちます。

 

 

1. 提示タイミングに関するメカニクス

 

1-1. 開始前に配布

 

 ゲーム本編の開始前に配布されるパターンです。

 

 PCの作成よりの段階での提示であり、PC作成はこの秘密情報を前提としておこなわれます。そのため、PCの出自や来歴などをふくめて、ほとんどあらゆる要素が指定され得ます。

 

1-2. 開始時に配布

 

 ゲーム開始の直前に配布されるパターンです。

 

 PCの作成よりの段階での提示であり、PCは秘密情報を反映せずに作成されています。その性格上、PCのバックボーンにかかわるものは指定されず、「PCたちの置かれた状況への特殊な事情を知っている」など、即物的な特異性を表現される場合が多いはずです。

 

 PC間の対立要素があるゲームで、検討の時間をなるべく均等にするために利用される場合があります。

 

1-3. 秘密情報つき作成済みキャラクター

 

 「システム側やシナリオ側で事前に作成してあるPC」(広義の〝プレロールドキャラクター〟の一種)をもちいるセッションにおいて、その作成済みキャラクターに秘密情報が付属しているパターンです。マーダーミステリーの典型的な実装パターンです。

 

1-4. セッション中に配布

 

 セッションの開始後、進行中に配布されるパターンです。多くの部分で「1-2. 開始時に配布」と共通し、やはりバックボーンではなく状況に対する内容となる場合が多いはずです(――「あなただけが特定の要素に気づいた」「秘密裏に第三者接触してきた」など)。

 配布タイミングは「所定のゲーム内時間の経過」「特定の秘密情報が全体に公開されたとき」など、ゲームの意図に応じてさまざまに定められます。

 

 このパターンは、前述の「1-1. 開始前に配布」「1-2. 開始時に配布」「1-3. 秘密情報つき作成済みキャラクター」とそれぞれ組み合わせることが可能です。

 

 

2. 可視性に関するメカニクス

 

2-1. 自分に割り当てられている秘密情報を参照できる

 

 みずからのPCの秘密情報の内容を、プレイヤー本人が認識しているパターンです。最も自然な構造であり、ほとんどの秘密情報はこれに該当するでしょう。

 

2-2. 自分に割り当てられている秘密情報を参照できない

 

 みずからのPCの秘密情報の内容を、プレイヤー本人が認識していない(できない)パターンです。本人からあるていど切り離された物的要素である場合がおおく、一部のマーダーミステリーが「それぞれのPCに関する証拠品」などとして実装しているものです。

 必然的に、このパターンの秘密情報は、他者によって暴かれる(すくなくともその可能性を提示する)ためにのみ存在します。

 

 

3. 秘密情報の数に関するメカニクス

 

3-1. 各PCに同数の秘密情報が割り当てられる

 

3-1-1. 各PCに単一の秘密情報が割り当てられる

 

 各PCが1つずつの秘密情報を割り当てられるパターンです。

 秘密情報をあつかうゲームとしては、最も単純にして典型的な構造といえます。

 

 それぞれの秘密情報の内容は、できるかぎり同程度の量と温度であることがプレイヤーから期待(想定)される傾向にあります(――ほかのパターンでもこの傾向はありますが、このパターンにおいてはとくに)。

 

3-1-2. 各PCにn個の秘密情報が割り当てられる

 

 各PCが2つ以上の同じ数ずつ、秘密情報を割り当てられるパターンです。「2個ずつ」「3個ずつ」など。

 

 数が多い分だけ秘密情報1個あたりの重みは軽くなる傾向にあり、「ひとつひとつの秘密ではなく、全体として〝誰が何を知っているか〟のマーブルをとりあつかう」趣向のゲームに適しています。

 

3-2. 各PCの秘密情報の数が非対称

 

 各PCに割り当てられる秘密情報の数が非対称(=不均等)なパターンです。たとえばPC(A)が1個の秘密情報、PC(B)が2個の秘密情報を割り当てられる――などのように。0個が割り当てられる(つまり秘密情報を割り当てられない)PCがいる場合もありえます

 

 このパターンは、「腹のさぐりあい」のような「秘密情報のやりとり」ではなく、「秘密情報をもちいて劇的な場面をつくる」意図に適しています(――秘密情報のやりとりの観点では、不均衡が不満をもたらしてしまいやすいといえるでしょう)。

 

 それぞれに割り当てられた秘密情報の数が明示されているかされていないかは、ゲームごとに異なります。

 明示しない場合、秘密情報の存在(「1-4. セッション中に配布」と組み合わせるなら〝発生〟)すらを認識できないようにすることも可能です。

 

3-3. 表面上の数よりも多い/少ない秘密情報

 

 「3-1-1. 各PCに単一の秘密情報が割り当てられる」では「それぞれの秘密情報の内容は、できるかぎり同程度の量と温度であることがプレイヤーから期待(想定)されています」と書きました。

 しかし、あえてこの想定に反することで、つまり意図的に内容が多い/少ない秘密情報を用意することによって、(明示された数にもとづく)予想を裏切るパターンもあります。

 

 これはもちろん不満の種となりやすい仕掛けではあるものの、情報の力学をデザインするうえで便利な手段ではあります。マーダーミステリーは、ジャンルとしてこれをうまく活用している好例です。

 

 

4. 公開に関するメカニクス

 

4-1. 参加者別の権限コントロール

 

4-1-0. 本人が公開可能であり、他者も参照を試みれる

 

 秘密情報を割り当てられたPC(とそのプレイヤー)が自発的に公開する権利をもち、かつ他者も参照に挑戦できるパターンです。

 とはいえ、この項目は整理のために設けただけの便宜上のものであり、実際のゲームがこのメカニクスを積極的に採用する例はあまりないはずです(――このメカニクスでは、ゲーム上の力学をうみづらいからです)。

 

4-1-1. 本人には公開不可能であり、他者のみ参照を試みれる

 

 秘密情報を割り当てられたPC(とそのプレイヤー)は自発的に公開する権利をもたず、他者が参照に挑戦できるパターンです。

 

 例として、秘密情報をとりあつかうゲームとしてメジャーな『インセイン』や『シノビガミ』があげられます。(※「回想シーン」など限定的な条件下においてのみ、本人が公開できる余地はあります。「4-2. ゲーム展開による時機コントロール

 

 このパターンにおいては、「秘密情報の参照を試みるプレイヤー」は、その時点では(当然ながら)秘密情報の内容を知りません。よって、秘密情報の内容に「知ってしまうと、知ったキャラクターにとって状況の見え方が変わる」性質をあたえると、ゲームの場に動きをうみやすいといえます。

 

4-1-2. 本人のみが公開可能であり、他者は参照を試みられない

 

 秘密情報を割り当てられたPC(とそのプレイヤー)が自発的に公開することによってのみ公開され得て、他者は参照に挑戦できないパターンです。

 

 例として、F.E.A.R.のいくつかのタイトルに実装されている「ダブルハンドアウト」系のルールがあげられます(『ダブルクロス』『トーキョーN◎VA』など)。

 

 このパターンにおいては、本人があえて秘密情報を公開することでしか秘密情報が第三者に認知され得ませんから、秘密情報の意義は「非公開要素によって力学を形成する」点になく、「作劇上の道具」となる点にあります。

 ひらたく言うならば「プレイヤーが自発的に見せ場をつくれる(すくなくともその機会と細部を制御できる)(ように演出する)」手段であり、したがって、秘密情報の内容はそのパフォーマンスへのモチベーションを高めるものであるべきです。

 

 バリエーションとして、「ゲーム(シナリオ)の進行のために公開が必須となる」パターンと、「公開せずにゲーム(シナリオ)を完結できる」パターンがあります。後者の場合、「あえて公開しない」判断もプレイヤーによる表現の一種となります。

 

 公開を期待するにあたり、システム(またはシナリオ,マスター)側が即物的インセンティブを設定する場合があります(――「公開すると(そのゲームにおいて有用な)○○○○ポイントを獲得できる」など。「6-2. 秘密情報がメカニクス面に影響する」)。

 

4-1-3. 指示によってのみ公開

 

 システムやシナリオ(またはそれらを運用するマスター)の指示によってのみ公開されるパターンです。

 指示が発生するタイミングは「4-2. ゲーム展開による時機コントロールに準じます。

 

 この場合も、公開を前提としていますから(すくなくともそれにちかい性格がありますから)、「非公開要素によって力学を形成する」意図ではなく「作劇の道具」としての意義がつよいメカニクス実装です。

 

4-2. ゲーム展開による時機コントロール

 

 おもに自発的な公開について、ゲームの展開状況にもとづく条件が設定されるパターンです。

 「第○○ターン以降に公開可能」「○○フェイズ中に公開可能」「イベント○○の発生後に公開可能」など。

 

 これはシナリオがさだめる場合が多いものの、システムが定める場合もあります。たとえば『シノビガミ』の「回想シーン」はそのひとつであり、これは「クライマックスフェイズ中に回想シーンを使用するときに自身の秘密情報を公開できる」主旨のものです)

 

4-2-1. 条件つきの自動的拡散

 

 「誰かがその秘密情報を得たとき、もし○○ならほかのPC(の一部または全部)もそれを得る」などのパターンです。

 例として、『シノビガミ』の「感情」による「情報共有」ルールなどがあげられます。

 

 このパターンでは、秘密情報を受動的に参照してしまう事態が発生するため、「4-1-1. 本人には公開不可能であり、他者のみ参照を試みれる」と同様に「知ってしまうと、知ったキャラクターにとって状況の見え方が変わる」内容が適しているといえます。

 

4-3. すべての秘密情報が必ず暴かれる構造

 

 「秘密情報と同数以上の参照機会があり、その機会を放棄できず、秘密情報の参照が失敗しない(5-2.)」ようなデザインの場合、すべての秘密情報はいずれかのPCによって暴かれることが確定しています。

 これはマーダーミステリーでしばしば見られる構造であり、おもに「3-1-2. 各PCにn個の秘密情報が割り当てられる」と組み合わせてつかわれます。

 

 

5. 参照の成否に関するメカニクス

 

 いずれの場合も、ふつうは、「行動権」に代表される何らかのコストによって回数が制限されます

 

5-1. 秘密情報の参照が失敗し得る

 

 秘密情報の参照を試みる際、ダイスロールなどのランダム性をもつ処理を必要とし、その結果によっては参照が失敗となるパターンです。

 例として、『インセイン』の「調査判定」などがあげられます。

 

5-2. 秘密情報の参照が失敗しない

 

 秘密情報を参照するとさえ行動の宣言をすれば、あやまたずそのとおりに秘密情報を参照できるパターンです。

 無作為なランダマイザの影響をうけないため、各プレイヤーの推理や話術などをとくに重視するゲームにおいて採用されます。

 

 

6. 効力に関するメカニクス

 

6-1. 秘密情報がメカニクス面に影響しない

 

 秘密情報があくまでフレイバー的な内容にとどまっており、ゲームメカニクス面の効力をもたないパターンです。

 「4-1-2. 本人のみが公開可能であり、他者は参照を試みられない」と相性がよい実装です。

 

6-2. 秘密情報がメカニクス面に影響する

 

 公開や参照が、メカニクス面で意味をもつパターンです。

 勝ち点や勝敗条件に関するものををはじめ、あらゆるボーナスとペナルティが実装され得ます。

 

 「この情報が公開されたなら、○○」「この情報を参照したなら、○○点ダメージ」などの情報側に定められる場合と、「あなたが情報○○○○を得たなら、勝ち点○○を得る」などのようにPC側に定められる場合があります。

 システムレベルでこれを推進している場合もあり、とくに『アマデウス』は、この点について非常に意識的なライティングがされている例です。

 

6-3. 直接の効力はないがプレイに影響を与える

 

 情報の公開・参照が直接的なメカニクス的効力を発揮せずとも、ほかのプレイヤーの情報(勝敗条件など)の発覚がゲームプレイに影響するパターンです。

 

 『インセイン』や『シノビガミ』の「特殊型」などにおいては、しばしばこの性質をもつ秘密情報が利用されます。

 

6-4. ゲーム全体がメカニクス依存的でない

 

 そもそものゲーム全体においてメカニクスの支配力がよわく、現場の人間の解釈による柔軟な運用を想定しているゲームのパターンです。

 この場合は、もし「6-1. 秘密情報がメカニクス面に影響しない」相当の記述であっても、その記述に対する解釈がゲーム展開に影響するため、およそあらゆる秘密情報が効力をもち得るとえいます。

 

 

7. 記述者に関するメカニクス

 

7-1. シナリオやマスターが記述する

 

 シナリオ(またはその解釈と運用を担うマスター)が秘密情報の文面を記述するパターンです。たいていの秘密情報はこれに該当するでしょう。

 

7-2. プレイヤーが記述する

 

 秘密情報の内容を、割り当てられるPCのプレイヤー本人がみずから記述するパターンです。

 

 必然的に非メカニクス領域の記述となりがちであり、多くは「4-1-2. 本人のみが公開可能であり、他者は参照を試みられない」「4-1-3. 指示によってのみ公開」と組み合わせてつかわれます。

 この例として、『エネカデット』の「エピソードカード」があげられます。

 

 ただし、「大半はシナリオやマスターが記述しているが、一部のみを記述・変更できる」という形態の場合もあります。このやりかたであれば、もとから記述されている部分でメカニクス的機能を確保できるため、「4-1-1. 本人には公開不可能であり、他者のみ参照を試みれる」でも利用できます。

 

 バリエーションとして、記述・変更をセッションの途中でおこなえるようにしてある例もあります。(前述の『エネカデット』はこれにも該当します)

 

 

参考文献

 

 

 (上記(の普遍的なルールとして用意されているもの)以外の、個々のシナリオでの実装については、ネタバレを避ける意図にもとづき、記載を割愛します)

 

 

『光砕のリヴァルチャー』 - データのプレイアビリティ

 『光砕のリヴァルチャー』のデータデザインはプレイアビリティがすごい、という話をします。

 

 本稿における「データ」とは、キャラクターの戦闘能力を構成する小単位の要素、すなわち、おおむね「フレームのアビリティ」「ウェポンの効果」「クロニクルの効果」を意味します。

 

 「プレイアビリティ」とは、「ユーザーがそのデータを見る・使うにあたって余計な負担や問題がないか」の観点です。

 

 

効果が書き下されている(キーワード化していない)

 

 普遍的なルール用語(【アタック判定】、ムーヴ、ジアドエネルギーなど)を別にすると、各効果はその詳細が原則として「書き下されて」います(キーワード化されていません)。つまり、「その効果だけを読めば(ほかのページを参照せずとも)意味がわかる」ようになっています

 

各効果に多用途性が(あんまり)ない

 

 『リヴァルチャー』のデータは、原則として、ひとつの効果が複数の用途をもたないようにデザインされています(例外はいくつかあります・後述)。

 

 手持ちのデータに複数の用途があると、「使いどころを(過剰に)悩んでしまう」――転じて「(過剰に)温存してしまって機を逸する」問題を引き起こしがちです。

(たとえば、「攻撃し、与えたダメージに等しい点数の回復効果を得る」みたいな効果があったとしたら、「まだダメージを受けていない状態では使いたくない」心理が発生してしまいがちですね)

 各データがひとつの用途のみをもつならば、この問題を回避できます。

 

 例外にあたるデータも、「一見すると多用途に感じづらい」ように記述されています。

 

 出目を操作したり振り直したりする効果は、その最も顕著な例です。(たとえば「自分の振ったダイスの出目を変更する」たぐいの効果は、「ジアドエネルギーの獲得」にも【アタック判定】にも使用できますが、データ単体で読むうえでは「ダイス目を変更する」という単機能に見えるため、初期理解がしやすくなっています)

 

 ほかには、一部のブレードにある「シールドを破壊したらジアドエネルギーを獲得する」効果も、その好例です。この「ジアドエネルギーを獲得」は、「第二の用途」ではなく「うまくいけばもらえるオマケ」と感じられるように誘導されています。そして、シールドを破壊できるかどうかはけっきょくのところアタックしてみないとわかりませんし、一方で、ブレードでの攻撃がうまくいけば大抵はシールドを破壊できますから、むやみに温存したくはなりません。得たジアドエネルギーも、ただちに活用できなかったとしても次ラウンドに繰り越せますしね。

 

デメリット効果が(あんまり)ない

 

 デメリット要素がふくまれる効果が少なく、その数少ない例外(後述)も充分に配慮された実装になっています。

 

 一般的にデメリット要素には、「(とくにゲーム経験のすくないユーザーにとって)理解に必要なステップが増える」「採用を躊躇させる」「プレイ中に使用を悩ませる」などを問題があります。これを避けることの意義はおおきく、そして『リヴァルチャー』は非常に意識的にこれを実践しているように見受けられます。

 

 少数あるデメリット要素も、(プレイアビリティを過剰に損なわないように)巧みに組み込まれています。その好例は、【エイムスタンス】です。これは余計なストレスをうまないように、充分な考慮がされています。

 「遠距離戦重視のフレームについているからあまり問題にならない」「名称がアビリティの内容を明瞭にあらわしており、納得できる」「もうひとつのアビリティが【エイムスタンス】との併用を前提としているから積極的に使用する動機がある(しかももうひとつのアビリティ側には【エイムスタンス】のデメリットを緩和する性質がある)」――などの、多重の配慮が見られます。すごい。

 

 ほかの好例は、「クロニクル」の「軽量化」「重装甲化」などです。これも「名称が内容を明瞭にあらわしており、納得できる」のはもちろん、デメリット要素は「デメリット」と明示されています(デメリット要素の理解のむずかしさのひとつは、「そもそもデメリットをデメリットと認識する」段階にあるので、これを明示する意味はおおきいのです)。

 

 【誓いますか?】は、このデザインにまつわる面白い例です。これの効果で追加される制約は、クロニクルの主旨からして理解が容易ですし、(やはり主旨に照らして)デメリットと表現すべき内容ではありませんから、このような記述になっているのでしょう。

 

各データの価値が明瞭である

 

 ここまでに述べてきた3点――「効果が書き下されている」「多用途性がない」「デメリット効果がない」などがもたらす総合的な作用として、各データの価値が非常に明瞭になっています。

 つまり、「そのデータを取得すると、どんな“いいこと”があって、どう活用すればよいのかが一目してわかる」(すくなくともわかったような気になれる)のです。

 

 ユーザーが「データがむずかしい」と感じる原因のおおきなひとつは「存在意義(使いみち)がわからない」ことです。『リヴァルチャー』のデータデザインは、それを多角的なアプローチによって回避しています。

 

各データが独立的に有用である & 有用性以外の強固な採用基準がある

 

 ユーザーが「データがむずかしい」と感じる原因の最たるもうひとつは、「データを選択できない」――言い換えれば「どのデータが相対的に有用なのか判断できない」ことです。『リヴァルチャー』はこの問題にも効果的な処方をもたらしています。

 

 まず、各データは独立的に充分な有用さをもっています。

 これはひらたく言うと、「死にデータみたいなものがない」「データ間の相性みたいなものが(あんまり)ない」ということです。

 (遠距離志向と近距離志向ではいくらか相性の問題があるものの、それについても致命的なほどの組み合わせはほぼありません)

 

 そして、有用性以外の採用基準として「設定やストーリーが気に入ったもの」が提示されています

 これは建前ではありません。例外なくすべてのデータに魅力的な小噺が用意されているのです。

 有用性の判断とちがって、「自分の嗜好がどれに魅力を感じるか」はブレづらい強固なものですから、第二の評価軸として頼もしいといえるでしょう。

 

“簡単で面白いゲーム”構想

 

 以上、デザイナーズノートで語られたような“簡単で面白いゲーム”構想、その重要な一部分を担っているであろう、データデザインに関する私見を述べました。

 

 

 『リヴァルチャー』の戦闘は、プレイとデザインをゆたかなものとするに充分な複雑さをのこしつつも、プレイアビリティは特筆すべき高さにあると感じました。どらこにあん技術の精粋ですね。瀧里フユさんと宝井ロメロさんに拍手。

 

防衛戦のデザイン

 本稿は、「TRPGの戦闘において〝防衛戦〟をデザインする」ための知見を記すものです。

 

 次の性質をもつゲームを主に想定しています。

 

  • シナリオやセッションのフォーマットとして「最後に戦闘をして終わる」構成がデフォルトである。
  •  その戦闘は、ふつう、敵性NPCの排除を目的とする。

 

 なお、具体的な特定のTRPGタイトルに依存する言及は、可能なかぎり避けています。

 

 

 

防衛戦=「なにかの防衛を目的とする戦い」

 

 防衛戦とは、「なにかの防衛を目的とする戦い」です。

 「なにか」とは「領土」「施設」「要人」など、「防衛」とは「侵入を防ぐ」「破壊を防ぐ」などである場合が多いはずです。

 

勝利条件=「終了するまで防衛対象が損なわれないこと」

 

 ふつうの(=敵を排除する)戦闘ならば、「敵を排除すること」が勝利≒終了条件です。

 

 一方、防衛戦ならば、「防衛対象が(規定以上の)被害を受けないこと」が勝利条件……ではあるものの、じつは、この定義では不十分です。正確には「終了するまで防衛対象が損なわれないこと」です。そうでなければ(防衛する期間を区切らなければ)、勝利できないからです。

 この終了条件は、おおくの場合、「一定のゲーム内時間の経過」または「敵戦力すべての排除」です。

 

敵の殲滅を推奨しない

 

 上では、終了条件として「敵戦力すべての排除」を挙げました。これは『アークナイツ』や『十三機兵防衛圏』などのタワーディフェンス系の電源ゲームでも多く採用されている終了条件です。

 しかし、(本来は防衛戦をする想定ではない)TRPGで防衛戦をデザインする場合には、この方法による勝利≒終了を推奨すると、防衛戦っぽくなりづらい傾向にあります。

 

 なぜならば、その方向にプレイヤーの行動を誘導してしまうと、それは「敵を排除する」ふだんの戦闘と似た雰囲気になりがちだからです。(タワーディフェンスゲームがこの条件なのは、「原則すべての戦闘が防衛戦ゆえに差別化が必要ない」のが大きい理由のひとつです)

 具体的には、「先制して、広範囲に、大火力を叩き込む」プレイングが推奨されてしまいます。これでは通常の(防衛戦ではない)戦闘です。

 

 ですから、「一定時間の経過」を終了条件とし、そこまでの防衛をもとめる形をとるほうが、防衛戦らしく感じさせやすいのです。

 その際、終了条件は、事前に明確に提示すべきです。(勝利条件のあいまいなゲームはきわめてストレスフルなものです)

 (場合によっては、プレイヤーキャラクターの行動(魔術儀式の完遂など)によって終了が前倒しになる仕掛けがありえますね。そのような事前に提示すべきです)

 

防衛要素の実装

 

 防衛戦ですから、当然、「防衛する対象」が必要です。それを実装します。

 フレイバーとしては「領土」「施設」「要人」などがメジャーどころでしょう。

 

 最も率直に実装するならば、「防衛対象はHP(やそれに準ずる値)を持ち、敵がそれを直接的に攻撃して減らしていく」あたりでしょう……が、これは(本来は防衛戦をする想定ではない)TRPGで表現すると、困ったことになりやすいアプローチです。

 具体的には、「ほかのキャラクターへの攻撃に対処する手段」が少なすぎたり、プレイヤーキャラクターがダメージを受ける頻度が減ってシステムが機能不全に陥ったり(HP減少をトリガーに動作するルールがある場合など)します。

 

 そのような問題を避ける、実装と運用が容易かつ効果的なアプローチとして、次のふたつがあります。

 

  • 敵は防衛対象を攻撃する。ただし、プレイヤーキャラクターを攻撃できる状況ならば、プレイヤーキャラクターを優先する。
  • 一定の条件(例:各ターンの終了時)を満たすごとに、生存している敵の数に応じて防衛対象が被害を受ける。

 

 このような方法であれば、もともとのゲームシステムの動作をあまり歪めずに、PCが戦況に干渉しやすくなります。

 

ウェーブの導入

 

 そこで効果的な手段が「〝ウェーブ〟の導入」です。

 ウェーブとは「敵(やそれに準ずる脅威)の出現する単位」を意味し、一般に「戦闘の進行にあわせて新たなウェーブが発生していく」デザインをふくみます。

 

 ウェーブの導入には、次の効用を期待できます。

 

  • 広域殲滅手段の価値が大きくなりすぎない(ウェーブに分割せずにすべての敵が見えてしまっていると、とにかく「空間的な広さ」の価値があがってしまい、これは「時間的な長さ」を重視する防衛戦にとって好ましくありません)
  • 盤上の要素の数が多くなりすぎない(プレイヤーに過大な負担をあたえない)

 

 また、最後のほうのウェーブに「ボス的な存在感の敵」を用意しておくと、「山場」も演出できます。

 

 ウェーブを導入するにあたり、ウェーブの発生条件は「絶対的な経過時間」を基準とするのがおすすめです。つまり「2ターン経過後にこのウェーブが発生する」などです。

 電源ゲームであれば、「敵の数が一定以下になったら次のウェーブが発生する」「特定の敵を排除したら次のウェーブが発生する」などの条件がしばしばみられます……が、これはTRPGとはあまり相性がよくありません。「発生タイミングにプレイヤーが干渉できてしまうと、より有利になるタイミングまで遅延する」プレイングが推奨されてしまい、それは特定のPCが行動権(の一部または全部)をあきらめることにつながりやすいからです。(電源ゲームの場合、行動機会が膨大であったり、自重するところまでふくめての技量を競う性質があったりするため、そこまで問題にはならないのですが)


敵を多めにする

 

 防衛戦においては、敵の数は多め(ともすれば多すぎるくらい)にするのが無難です

 

 理由の第一は、「戦闘を想定しており、通常は敵を排除して勝利となる」ゲームシステムにおいては、プレイヤーキャラクター側に「敵を排除する」手段が(ふつうは)最も充実しており、これを活用するためです。(「可能であれば敵を何体か倒し、その分だけ被害を減らす」プレイングを推奨する形です)

 

 理由の第二は、(とくにウェーブを導入した場合など)盤面から敵がいなくなる(またはいちじるしくすくなくなる)と、プレイヤーキャラクターが手持ち無沙汰になってしまうから、それを避けるためです。

 「プレイヤー側が最善を尽くしても敵がそれなりに残る」くらいが適切です。

 

 ただし、数多くの敵のすべてが能動的に行動すると、プレイヤー側の手番でない時間が多くなりすぎてしまいます。

 それを避けるため、「他の敵を強化するが、行動しない」敵や、「ターン終了時に防衛対象に被害を与えるが、行動しない」敵、「プレイヤーキャラクターが近づくとそれに自動的にダメージを与えるが、行動しない」敵などの、「能動的に行動しないが脅威となる敵」をそれなりの割合で混ぜて、敵側の手番を減らす工夫が考えられます。

 

戦場は狭すぎず広すぎず

 

 防衛戦の戦場は、狭すぎずも広すぎずもしない規模が理想的です。

 これはどちらも「防衛戦は、ただ攻撃するだけではない」(ただ攻撃しているだけで終わると防衛戦っぽくない)ことに因ります。

 

 狭すぎると、「敵を射程に捉えて攻撃する」を、なにも考えずに実践しつづけるだけで済んでしまいます。

 広すぎると、ただ攻撃する以外のことを考えるには複雑になりすぎてしまいます。(そして、「広さ」に関連するデータの価値が大きくなりすぎて、防衛戦らしさをスポイルしてしまいます)

 

 目安としては、「戦場内に現実的にありえる最大の距離を基準に、標準的なプレイヤーキャラクターが1回の手番で3~7割ほどしかカバーできない」くらいでしょうか。(ゲームシステムによって詳細は変わるものの、1回の手番で端から端までいけるようでは判断を迫れませんし、2回の手番でもカバーできないほど広いと検討をむずかしくしすぎる(※二手先を考えるのは一般的にむずかしい)傾向にある、といえるでしょう)

 

おわり

 

 以上、防衛戦を想定していないTRPGで防衛戦をデザインするための知見でした。

 

 世に防衛戦シチュエーションが増えることを期待しています。