PC秘密情報のメカニクス

はじめに(本稿の内容と意図)

 

 本稿では、TRPG(やそれに隣接するゲーム)における「PC秘密情報」メカニクスを列挙していきます。

 

 本稿は、「PC秘密情報や関連ルールを、解釈または実装する」活動への補助を意図するものです。

 

 

 

用語

 

  • マスター ―― 多くのゲームが「ゲームマスター」と呼称する参加者(の役割)です。進行の主導権と、ゲームの大部分について強力な決定権をもつ場合がほとんどです。後述の「プレイヤー」と兼務する可能性は、本稿では考慮していません。
  • プレイヤー ―― それぞれが原則ひとりのキャラクターをあつかい、おもにそれを通してゲームに干渉できる(する)参加者です。そのキャラクターを「プレイヤーキャラクター」または「PC」と呼称します。ゲームひとつにおけるプレイヤーの人数は、すくなくとも1人から、たいていは4,5人くらいまでの幅をとります。
  • PC秘密情報 ―― いずれかのPCに割り当てられる、プレイヤーやPCの一部(多くは本人以外)からは参照できない情報です。本稿の主題です。ゲームの種類あるいは個々人の語彙によって「秘匿情報」「裏ハンドアウト」などさまざまに呼ばれます。PCでないキャラクターや物品などに設定されているものはふくみません。以下では単に「秘密情報」とだけ記述した場合も、「PC秘密情報」と同じ意味をもちます。

 

 

1. 提示タイミングに関するメカニクス

 

1-1. 開始前に配布

 

 ゲーム本編の開始前に配布されるパターンです。

 

 PCの作成よりの段階での提示であり、PC作成はこの秘密情報を前提としておこなわれます。そのため、PCの出自や来歴などをふくめて、ほとんどあらゆる要素が指定され得ます。

 

1-2. 開始時に配布

 

 ゲーム開始の直前に配布されるパターンです。

 

 PCの作成よりの段階での提示であり、PCは秘密情報を反映せずに作成されています。その性格上、PCのバックボーンにかかわるものは指定されず、「PCたちの置かれた状況への特殊な事情を知っている」など、即物的な特異性を表現される場合が多いはずです。

 

 PC間の対立要素があるゲームで、検討の時間をなるべく均等にするために利用される場合があります。

 

1-3. 秘密情報つき作成済みキャラクター

 

 「システム側やシナリオ側で事前に作成してあるPC」(広義の〝プレロールドキャラクター〟の一種)をもちいるセッションにおいて、その作成済みキャラクターに秘密情報が付属しているパターンです。マーダーミステリーの典型的な実装パターンです。

 

1-4. セッション中に配布

 

 セッションの開始後、進行中に配布されるパターンです。多くの部分で「1-2. 開始時に配布」と共通し、やはりバックボーンではなく状況に対する内容となる場合が多いはずです(――「あなただけが特定の要素に気づいた」「秘密裏に第三者接触してきた」など)。

 配布タイミングは「所定のゲーム内時間の経過」「特定の秘密情報が全体に公開されたとき」など、ゲームの意図に応じてさまざまに定められます。

 

 このパターンは、前述の「1-1. 開始前に配布」「1-2. 開始時に配布」「1-3. 秘密情報つき作成済みキャラクター」とそれぞれ組み合わせることが可能です。

 

 

2. 可視性に関するメカニクス

 

2-1. 自分に割り当てられている秘密情報を参照できる

 

 みずからのPCの秘密情報の内容を、プレイヤー本人が認識しているパターンです。最も自然な構造であり、ほとんどの秘密情報はこれに該当するでしょう。

 

2-2. 自分に割り当てられている秘密情報を参照できない

 

 みずからのPCの秘密情報の内容を、プレイヤー本人が認識していない(できない)パターンです。本人からあるていど切り離された物的要素である場合がおおく、一部のマーダーミステリーが「それぞれのPCに関する証拠品」などとして実装しているものです。

 必然的に、このパターンの秘密情報は、他者によって暴かれる(すくなくともその可能性を提示する)ためにのみ存在します。

 

 

3. 秘密情報の数に関するメカニクス

 

3-1. 各PCに同数の秘密情報が割り当てられる

 

3-1-1. 各PCに単一の秘密情報が割り当てられる

 

 各PCが1つずつの秘密情報を割り当てられるパターンです。

 秘密情報をあつかうゲームとしては、最も単純にして典型的な構造といえます。

 

 それぞれの秘密情報の内容は、できるかぎり同程度の量と温度であることがプレイヤーから期待(想定)される傾向にあります(――ほかのパターンでもこの傾向はありますが、このパターンにおいてはとくに)。

 

3-1-2. 各PCにn個の秘密情報が割り当てられる

 

 各PCが2つ以上の同じ数ずつ、秘密情報を割り当てられるパターンです。「2個ずつ」「3個ずつ」など。

 

 数が多い分だけ秘密情報1個あたりの重みは軽くなる傾向にあり、「ひとつひとつの秘密ではなく、全体として〝誰が何を知っているか〟のマーブルをとりあつかう」趣向のゲームに適しています。

 

3-2. 各PCの秘密情報の数が非対称

 

 各PCに割り当てられる秘密情報の数が非対称(=不均等)なパターンです。たとえばPC(A)が1個の秘密情報、PC(B)が2個の秘密情報を割り当てられる――などのように。0個が割り当てられる(つまり秘密情報を割り当てられない)PCがいる場合もありえます

 

 このパターンは、「腹のさぐりあい」のような「秘密情報のやりとり」ではなく、「秘密情報をもちいて劇的な場面をつくる」意図に適しています(――秘密情報のやりとりの観点では、不均衡が不満をもたらしてしまいやすいといえるでしょう)。

 

 それぞれに割り当てられた秘密情報の数が明示されているかされていないかは、ゲームごとに異なります。

 明示しない場合、秘密情報の存在(「1-4. セッション中に配布」と組み合わせるなら〝発生〟)すらを認識できないようにすることも可能です。

 

3-3. 表面上の数よりも多い/少ない秘密情報

 

 「3-1-1. 各PCに単一の秘密情報が割り当てられる」では「それぞれの秘密情報の内容は、できるかぎり同程度の量と温度であることがプレイヤーから期待(想定)されています」と書きました。

 しかし、あえてこの想定に反することで、つまり意図的に内容が多い/少ない秘密情報を用意することによって、(明示された数にもとづく)予想を裏切るパターンもあります。

 

 これはもちろん不満の種となりやすい仕掛けではあるものの、情報の力学をデザインするうえで便利な手段ではあります。マーダーミステリーは、ジャンルとしてこれをうまく活用している好例です。

 

 

4. 公開に関するメカニクス

 

4-1. 参加者別の権限コントロール

 

4-1-0. 本人が公開可能であり、他者も参照を試みれる

 

 秘密情報を割り当てられたPC(とそのプレイヤー)が自発的に公開する権利をもち、かつ他者も参照に挑戦できるパターンです。

 とはいえ、この項目は整理のために設けただけの便宜上のものであり、実際のゲームがこのメカニクスを積極的に採用する例はあまりないはずです(――このメカニクスでは、ゲーム上の力学をうみづらいからです)。

 

4-1-1. 本人には公開不可能であり、他者のみ参照を試みれる

 

 秘密情報を割り当てられたPC(とそのプレイヤー)は自発的に公開する権利をもたず、他者が参照に挑戦できるパターンです。

 

 例として、秘密情報をとりあつかうゲームとしてメジャーな『インセイン』や『シノビガミ』があげられます。(※「回想シーン」など限定的な条件下においてのみ、本人が公開できる余地はあります。「4-2. ゲーム展開による時機コントロール

 

 このパターンにおいては、「秘密情報の参照を試みるプレイヤー」は、その時点では(当然ながら)秘密情報の内容を知りません。よって、秘密情報の内容に「知ってしまうと、知ったキャラクターにとって状況の見え方が変わる」性質をあたえると、ゲームの場に動きをうみやすいといえます。

 

4-1-2. 本人のみが公開可能であり、他者は参照を試みられない

 

 秘密情報を割り当てられたPC(とそのプレイヤー)が自発的に公開することによってのみ公開され得て、他者は参照に挑戦できないパターンです。

 

 例として、F.E.A.R.のいくつかのタイトルに実装されている「ダブルハンドアウト」系のルールがあげられます(『ダブルクロス』『トーキョーN◎VA』など)。

 

 このパターンにおいては、本人があえて秘密情報を公開することでしか秘密情報が第三者に認知され得ませんから、秘密情報の意義は「非公開要素によって力学を形成する」点になく、「作劇上の道具」となる点にあります。

 ひらたく言うならば「プレイヤーが自発的に見せ場をつくれる(すくなくともその機会と細部を制御できる)(ように演出する)」手段であり、したがって、秘密情報の内容はそのパフォーマンスへのモチベーションを高めるものであるべきです。

 

 バリエーションとして、「ゲーム(シナリオ)の進行のために公開が必須となる」パターンと、「公開せずにゲーム(シナリオ)を完結できる」パターンがあります。後者の場合、「あえて公開しない」判断もプレイヤーによる表現の一種となります。

 

 公開を期待するにあたり、システム(またはシナリオ,マスター)側が即物的インセンティブを設定する場合があります(――「公開すると(そのゲームにおいて有用な)○○○○ポイントを獲得できる」など。「6-2. 秘密情報がメカニクス面に影響する」)。

 

4-1-3. 指示によってのみ公開

 

 システムやシナリオ(またはそれらを運用するマスター)の指示によってのみ公開されるパターンです。

 指示が発生するタイミングは「4-2. ゲーム展開による時機コントロールに準じます。

 

 この場合も、公開を前提としていますから(すくなくともそれにちかい性格がありますから)、「非公開要素によって力学を形成する」意図ではなく「作劇の道具」としての意義がつよいメカニクス実装です。

 

4-2. ゲーム展開による時機コントロール

 

 おもに自発的な公開について、ゲームの展開状況にもとづく条件が設定されるパターンです。

 「第○○ターン以降に公開可能」「○○フェイズ中に公開可能」「イベント○○の発生後に公開可能」など。

 

 これはシナリオがさだめる場合が多いものの、システムが定める場合もあります。たとえば『シノビガミ』の「回想シーン」はそのひとつであり、これは「クライマックスフェイズ中に回想シーンを使用するときに自身の秘密情報を公開できる」主旨のものです)

 

4-2-1. 条件つきの自動的拡散

 

 「誰かがその秘密情報を得たとき、もし○○ならほかのPC(の一部または全部)もそれを得る」などのパターンです。

 例として、『シノビガミ』の「感情」による「情報共有」ルールなどがあげられます。

 

 このパターンでは、秘密情報を受動的に参照してしまう事態が発生するため、「4-1-1. 本人には公開不可能であり、他者のみ参照を試みれる」と同様に「知ってしまうと、知ったキャラクターにとって状況の見え方が変わる」内容が適しているといえます。

 

4-3. すべての秘密情報が必ず暴かれる構造

 

 「秘密情報と同数以上の参照機会があり、その機会を放棄できず、秘密情報の参照が失敗しない(5-2.)」ようなデザインの場合、すべての秘密情報はいずれかのPCによって暴かれることが確定しています。

 これはマーダーミステリーでしばしば見られる構造であり、おもに「3-1-2. 各PCにn個の秘密情報が割り当てられる」と組み合わせてつかわれます。

 

 

5. 参照の成否に関するメカニクス

 

 いずれの場合も、ふつうは、「行動権」に代表される何らかのコストによって回数が制限されます

 

5-1. 秘密情報の参照が失敗し得る

 

 秘密情報の参照を試みる際、ダイスロールなどのランダム性をもつ処理を必要とし、その結果によっては参照が失敗となるパターンです。

 例として、『インセイン』の「調査判定」などがあげられます。

 

5-2. 秘密情報の参照が失敗しない

 

 秘密情報を参照するとさえ行動の宣言をすれば、あやまたずそのとおりに秘密情報を参照できるパターンです。

 無作為なランダマイザの影響をうけないため、各プレイヤーの推理や話術などをとくに重視するゲームにおいて採用されます。

 

 

6. 効力に関するメカニクス

 

6-1. 秘密情報がメカニクス面に影響しない

 

 秘密情報があくまでフレイバー的な内容にとどまっており、ゲームメカニクス面の効力をもたないパターンです。

 「4-1-2. 本人のみが公開可能であり、他者は参照を試みられない」と相性がよい実装です。

 

6-2. 秘密情報がメカニクス面に影響する

 

 公開や参照が、メカニクス面で意味をもつパターンです。

 勝ち点や勝敗条件に関するものををはじめ、あらゆるボーナスとペナルティが実装され得ます。

 

 「この情報が公開されたなら、○○」「この情報を参照したなら、○○点ダメージ」などの情報側に定められる場合と、「あなたが情報○○○○を得たなら、勝ち点○○を得る」などのようにPC側に定められる場合があります。

 システムレベルでこれを推進している場合もあり、とくに『アマデウス』は、この点について非常に意識的なライティングがされている例です。

 

6-3. 直接の効力はないがプレイに影響を与える

 

 情報の公開・参照が直接的なメカニクス的効力を発揮せずとも、ほかのプレイヤーの情報(勝敗条件など)の発覚がゲームプレイに影響するパターンです。

 

 『インセイン』や『シノビガミ』の「特殊型」などにおいては、しばしばこの性質をもつ秘密情報が利用されます。

 

6-4. ゲーム全体がメカニクス依存的でない

 

 そもそものゲーム全体においてメカニクスの支配力がよわく、現場の人間の解釈による柔軟な運用を想定しているゲームのパターンです。

 この場合は、もし「6-1. 秘密情報がメカニクス面に影響しない」相当の記述であっても、その記述に対する解釈がゲーム展開に影響するため、およそあらゆる秘密情報が効力をもち得るとえいます。

 

 

7. 記述者に関するメカニクス

 

7-1. シナリオやマスターが記述する

 

 シナリオ(またはその解釈と運用を担うマスター)が秘密情報の文面を記述するパターンです。たいていの秘密情報はこれに該当するでしょう。

 

7-2. プレイヤーが記述する

 

 秘密情報の内容を、割り当てられるPCのプレイヤー本人がみずから記述するパターンです。

 

 必然的に非メカニクス領域の記述となりがちであり、多くは「4-1-2. 本人のみが公開可能であり、他者は参照を試みられない」「4-1-3. 指示によってのみ公開」と組み合わせてつかわれます。

 この例として、『エネカデット』の「エピソードカード」があげられます。

 

 ただし、「大半はシナリオやマスターが記述しているが、一部のみを記述・変更できる」という形態の場合もあります。このやりかたであれば、もとから記述されている部分でメカニクス的機能を確保できるため、「4-1-1. 本人には公開不可能であり、他者のみ参照を試みれる」でも利用できます。

 

 バリエーションとして、記述・変更をセッションの途中でおこなえるようにしてある例もあります。(前述の『エネカデット』はこれにも該当します)

 

 

参考文献

 

 

 (上記(の普遍的なルールとして用意されているもの)以外の、個々のシナリオでの実装については、ネタバレを避ける意図にもとづき、記載を割愛します)