瀧里フユ氏の配信の内容を要約したものです。
(元の発言ママではなく、要点とおもわれる部分のみを抽出、編集しています)
今回は「TRPGデザイナーになるには」っていう講座をやってほしいと依頼されたので、よしやってやろう、ってこの時間をとったわけですね。
1時間で、TRPGをつくってみようっていうひとの、一番つまづきやすいポイントを、まずブレイクします。ブレイクして、「なんだオレでも作れるじゃん」ってところにもっていくのが、今回の目玉。
みんな、共有ボタンでこれ(配信のURL)をTwitterに流して、未来のTRPGデザイナーとか、「コイツがつくったシステムはぜったいオレにぶっ刺さる、だからコイツにつくってほしい」みたいなひとに送るのだ。
TRPGデザイナーになるには何をすればいいんだろう? そもそもTRPGデザイナーというのは、TRPGをつくるひとのことをいうんですけど、(つくるにあたって)いろいろと仕事があるのは知ってますよね。ルールとかデータとか世界観とかリプレイとか、あとシナリオとか、あとゲームマスターとプレイヤーも、じつはゲームをつくっているひとですね。
TRPGをつくるひとのなかでも、テーマ、ルール、世界設定やデータ、リプレイ、これら全部をつくれるひとをTRPGデザイナーといいます。
それぞれをできるひとはいっぱいいる。で、これを全部できないといけない、というとアレなんだけど。ぜんぶがぜんぶ「神級」じゃなくていいけど、「よしあし」がわかって、それを「発注できるくらいの目をもっている」必要はある。
コンセプトだけつくって、あとはすべて外注する、っていうのもアリ。
同人は自分の“好き”を全力全開で出しても(誰の利害関係とも衝突しないので)いい。商業はブレーキが必要。出版社の倫理規定とか会社の方針とか。責任が自分にあるのが同人、会社がもつのが商業。
いちばん大きな違いは、「街の本屋さんに置いてもらえるかどうか」。だから、ひろくあそんでほしいなら、商業のルートを目指すほうがいいかもしれない。
本編ここから。TRPGのつくりかたを教えていきます。フユの技術はなにも隠すつもりがありません。ぜんぶ教えたいつもりでいる。
(TRPGをつくる手順としては)まず「テーマ」を設定する。テーマとは、「なにをするシステムなのか」。「どんな世界なのか」。“絶対にゆずれない部分”。ステラナイツだったら、「パートナーといちゃいちゃするシーンがめちゃくちゃやりたい!」とか、「よそよそが絡んでいるところを特等席で眺めたい」とか。
で、第ニの手順として、「テーマを再現するギミック」をつくる。これはとくに面白いギミックをつくろうとしなくていい。なぜなら、テーマが面白ければ、それを再現したギミックは面白くなるはずだから。
「面白いルール(メカニクス)をつくりました」からはじめると、空中分解したり途中で留まっちゃったりしやすい。そこからはじめてできるひともいるけど。
ともかく、フユとおなじタイプのひとなら、(テーマを先に決めて)テーマを再現するように命をかけるのがいい。ここがうまくいけば、あとはサクサクいく。
で、ギミックができたら、テストプレイをする。まずは「ルールサマリーとサンプルキャラクターだけ」用意してあそびましょう。
(電源ゲームの)「体験版」みたいな感じ。このテストを納得できるまでやる。
(納得の)基準としては、「オレはこのゲーム超面白いと思った!」っていうところまで。そこまでいければ(この時点での)テストプレイは完了。あとは書くだけ。だから、テストプレイが完了したら、完成したも同然。
このテストプレイが終わってるなら、もう「楽しくあそべるゲームだ」ってことはわかっている。だから書き起こせば完成。発表すればデザイナーデビュー。
ここからは細かくいきましょう。まず「テーマをつくる」。これが最優先! テーマというのは、「ユーザーに味わってほしいワンシーン」のこと。“かっこいいバトル”とか“陰謀劇やりたい”とか“告白シーンをたのしくしたい”とか“異能に覚醒する瞬間に一番もりあがるやつ”とか“銃撃戦やりたい! ※ハリウッド映画ばりの火薬量”とか。「このシステムをあそぶと、こんなたのしい場面ができるんですよ!」っていうコアの部分。
ここに自分の“好き”を詰め込めば絶対に面白くなる。同じか近い好みのひとはかならずいるから、そのひとに刺さる作品をつくるには、自分の好みに合わせて練るのがいい。面白いルールとかはこの時点では不要。テーマをつくるところからやりましょう。
そしたら、「テーマを再現する」。「誰でもルールに沿ってあそぶだけで、(テーマに設定した)最高のワンシーンを味わえる」ように、ルールをつくります。
ほかのことは考えない。テーマをどう再現するかを考える。
実例を出していこう。『リヴァルチャー』の場合、テーマは「激しいドッグファイトとギリギリの空戦をやってほしい」。ドッグファイトをさせたいから、移動してる感じがでるようにしたい。マップをつかおう。マップをつかうと移動してる感じがでる。空戦だから「高度」が必要。で、「激しい空戦」っていうくらいだから、ゲームスピードは速いほうがいい。じゃあ横(方向の座標軸)はいらない、高さだけでいい。あとは、「足をとめて殴り合う」にならないように(※それだとドッグファイトにならない)、リアクションで移動するようにする。
こんな感じで、「テーマのこれを満たすためにはこうしたらいい」、「そこにはこういう問題点があるのでは?」、「なら解決策はこれだ!」っていうふうにフユは考えています。
別の例として、『アンサング・デュエット』なら、テーマは「大切なひとを異界から取り戻す」ゲームがやりたい。「取り戻す」なら、“手をひっぱる”イメージがいいよね。手をとりながら走ってくるイメージってエモいよね? フユはエモいと思う。“片方が引っ張っていく”んだからね。
で、助けるバインダーと助けられるシフターの立場をあらわすために、(判定のふるまいを)非対称にした。すると「安定して7くらいが出るし最大は12」のバインダーと、「ブレブレだし最大でも10」のシフターができる。あとは、異界のおそろしさや、キャラクターの代償を表現するために、フラグメント(と変異)のルールを入れた。
『ステラナイツ』なら、さっきいったように「ふたりの絡みを眺めたい」というテーマがあったから、プレイヤー2人用じゃなくて3人以上にする。でもそれだと奇数人のときに組がつくれないから、キャラクターを2人ずつつくって組むようにする。そのままだと2キャラクターを同時に操作しないといけなくな(り得)るから、(ペア同士が)同時に出ないよう(な構造)にする。
あとは、ヒマになっちゃうのを避けたり、よそのペアにリアクションしたりできるようにするために、「無言の“いいね”ボタン」として「ブーケ」のルールを入れた。こんな感じだから、『ステラナイツ』は、戦闘ルールは後回しだった。
こんなふうに、「一番やってほしいこと(テーマ)」を、「ルールに沿ってあそべばだれでも再現できるように」する。何回でも言う。これがいちばん大事。そのうえで、そのルールの問題点や障害になりそうな要素を解決するように調整していく。
この考えかたさえできれば、だれでもデザイナーになれる。これができないと、「このゲームのなにが面白いか?」がわかっていないということであって、発注すらできない。
この調整をするときは、はじめに決めたテーマからブレないようにしよう。
たとえば、「テーマからはずれてるけど、面白い」っていうルールを思いついた場合。“あなたにとって大事なのはどっちですか?”。
テーマだよね。「これがやりたいからこのゲームをつくる」って決めたのに、そこからずれた面白い要素を選んでしまったら、それはもう“(最初につくろうとした)あなたのゲーム”ではなくなってしまう。それは“偶然発生した面白いだけのゲーム”。
だから採用しない。もったいないからメモして、別の作品でつかったりはする。
そういうルールづくりの、コツというか実例として、たとえば「ハイスピードアクション」をやりたいんだとして、“それを再現するルールをつくればいいよ”っていっても、やっぱり思いつかないひともいると思うんですよ。
「ハイスピードアクション」をしたいなら、まずは「処理を軽く」しよう。ゲームスピードが変わると世界の重さも変わる。高速で進むゲームなら軽快な世界に見えるし、逆にじっくりやるゲームなら湿度の高い世界に見える。
で、「処理を軽く」したいから、データの数や判定の回数を減らしたりする。
たとえば命中に対する回避判定を削ると、ゲーム全体で何回分の判定が減るか、とか。
コメントにあるように、「自分の手番が早く回ってくると速く感じる」みたいな。
そして、「マップをつかう」と「移動してる感じ」がでます。目で見て移動したってわかるから。
でもマップがあると、高速機が逃げると低速機が追いつけなくなったりする。それが「やりたいこと」ならいいんだけど、そうじゃないなら、それは(ゲーム体験として)まずい。この判断は、デザイナーがやらなければならない。
(まずいから、)そこで「移動できる範囲を制限する」。つまり(どらこにあん語でいう)「ダイアクロックマップ」。
円形マップだとなにがいいかって、最大でも対角線上までしか逃げられないこと。ダイアクロックシステムは無償公開してるからみなさんつかってください。
ほかの例として、「キャラクターの関係性を描きたい」場合。
関係性を描きたいんだから、その関係性が一発でバシッと決まる要素があるといい。
フユが最近(『リヴァルチャー』で)やったのは、「パートナーをどう呼ぶ?」「パートナーからどう呼ばれたい?」を決めるようにする、ってやつ。
どういう関係性なのかを(決めてほしいなら)、(通常の)文章で書くよりも、ルールとして積んだほうがいい、ってこと。
「どう呼ぶ?」「どう呼ばれたい?」があれば、関係性が(具体的・詳細に)見えてくるじゃん。
『ステラナイツ』の「変身キーワード」もこのたぐいで、あれはふたりで考えるように(ルールブックに)書いてある。
あれを決めてもらうことで、観客からふたりの関係性がわかるようになる。
みっつめの例として、ファンタジーとかSFとかを書きたい場合。そういうときは、その世界ならではの要素……魔法とか技術とかを、最重要ルールとしてまず再現する。
「この世界の魔法はとにかく危険で、つかうときは死を覚悟しないといけない」とか。(その場合は、ルールとして)つかうと身体の一部が消えるとか、記憶が消えるとか、身体にカミサマの特徴があらわれるとか。そういうルールがあると、「やばい」ってわかるじゃん?
あとは「高すぎる目をだしたらヤバい」とか。「魔力が暴走する」みたいな。
『アルセット』の「励起」もそうだね。
話をもどして、「テーマを再現する」。これがきょうの要点。「あなたの考える一番面白いテーマ」を再現しよう。これが今回の肝になる部分です。これをとにかくがんばろう!
再現できたら、(ゲーム内で)そこにいたる過程をつくっていく。なにかしらバトルがやりたいなら、やりたいバトルを再現するルールはできているはずで、戦闘までの道中をつくる、みたいなイメージ。なぜ戦闘をするのか、どういうやりとりを経て戦闘にのぞむのか、みたいな。
そこができたら、「あそびの幅」をつくろう。
データの種類をふやしたり、設定の幅をふやしたり。
たとえば『ステラナイツ』だったら、最初のテストプレイのときは、サンプルキャラクター2体、白コスモスと黒オダマキしかいなかった。つまり色2つと花2つ。これの数をふやすとか。色や花が何種類ほしい、みたいな。
『アンサング・デュエット』だったら、三日月財団の設定を入れて「依頼されて異界にいく」流れができるようにしたり、異界のアイテムが関係するネタをあつかえるように「ストーリーフラグメント」のルールを入れたり。
そんな感じであそべるようになったら、ルールサマリーとサンプルキャラクターをつくる。まだルール本文は書いちゃだめ。絶対だめ。本文を先に書くと、あとでいっぱい書き直さなきゃいけなくなる。
最初のルールサマリーはふわっとしててOK。サンプルキャラクターのバランスも重要じゃない。この時点でテストしたいのはバランスではないので。バランスはデータがすべてそろってから最後にとる。
ここでテストするのは、「たのしいかどうか」。「思い描いたテーマどおりにゲームが動くかどうか」。
うごいたらOK。
この段階でのテストプレイをどこまでやるかってのは、「面白いわ」ってなったらOK。1回やってそうなったならもうやらなくていい。この「面白さ」というのは、主観でいいとおもう。あなたの作品なのだから、あなたが「これ最高じゃん」って思えたら、もういいとおもう。
逆に、面白いと思えるまでは、何回でも作り直す。
ほかのひとが、なにか意見をいってくることはあるし、それを受け容れるのもいいんだけど、最終的な判断はデザイナーがにぎっているべきだとおもう。デザイナーが面白いと思わないゲームはどうやっても面白くない。それは(面白いはずの)テーマからちがうモノのはずだからね。
デザイナーが主導せずに、「自分より面白いものがつくれるひとにどんどん外注していく」タイプのやりかたもあるにはある。そういうやりかたをするなら、今回の話とはぜんぜんちがうアプローチのほうがいい。
あと、テストプレイ中に、「これ追加したらめっちゃ面白いんじゃね?」っていうアイディアが出てくることも多いだろうけど、たいていの場合、それはトラップ。なかには本当に適切なアイディアもあるから、ぜんぶ捨てるのがいいというわけでもないけど、ぜんぶ拾ってもいけない。
「テーマからブレてないか」を見てください。そして、テーマからブレているなら、どれだけ面白くても排除してください。
(採用する)代わりにメモしておいて、次回作とかでつかう。
だって、(その追加要素が単体で)どんなに面白くても、(テーマから)ブレてたら、そのシステムには不要なんですよ。一番面白いテーマが再現されているなら、それで面白さは十分。そこにほかの要素を足すと、面白さの軸が複数になってしまう。そうなると、(ユーザーがそのゲームを)「どうたのしめばいいのか」わからなくなっちゃう。
ただ、もしテーマに合ってる面白いアイディアを思いついたなら、それは超ナイスアイディアってこと(だから、採用していい)。
あとは書くだけ。
この「あとは書くだけ」からはじめると完成しづらかったりする。
ライティングのコツとしては、「いちばん好きなルールブックを真似しましょう」。とくに、そのルールブックの、(要素間の記述の)順番。順番は、デザイナーがユーザーに読んでほしい順番だから。
フユの場合は、まず「はじめに」で簡単に世界の説明をして。その次はキャラクターをつくりたいよね? だからキャラクターメイク。そのあとは、セッションの進行方向、戦闘以外のルール、戦闘とかを経て、最後に世界設定。最初に「これだけで遊べますよ」というところまでもってって、あそびを知ってもらったうえで、詳細な世界を提示する。
(最終的には)世界が一番大事だとはおもうけど、「最初にゲームに入るまで」を簡単にしたい。
まずゲームの一番面白いところにさわってもらってから、「はいこれが世界ですよ」って出す。
これで本編は終わりです。このあとは質問タイムとか。(後略)